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神保多胡の道

折々の散歩道

変わりゆく町並み、変わらない心

吉井町

竹林のスケッチ

竹林

 市町村にはたいていひとつずつ、郷土の歴史や自然を紹介する資料館が建っています。観光の際の情報収集の拠点として私もよく活用しているのですが、一概に資料館といっても、建物や展示内容など千差万別で、地域の文化度を測るよいバロメーターになります。今回情報収集のため立ち寄った吉井町郷土資料館は、さほど設備が充実しているわけではないのですが、昭和レトロの雰囲気が漂い、展示に手作り感があって、好ましく感じられました。パンフレット類も充実しており、特に感銘を受けたのは、平成4年発行の『消えゆく町並み』という小冊子で、「やがてはなくなったり、変わってしまうであろう吉井町の特徴的風景を20点の写真に収め、解説を加え、冊子としてまとめたもの」(序文より)なのですが、このような資料を窓口で無料配布していることからも、この資料館の文化度の高さが窺えます。

  さて、今回は、資料館を基点とした2時間程度の散歩道を紹介しましょう。
資料館を出て、新町(しんちょう)通りを南に進むと、すぐに玄(げん)太(たい)寺が現れます。慶長5年(1600)の創建で、寺域内には厄除け観音堂もあります。庶民的な親しみやすさのある観音堂をしばし眺めてから、大沢川と向かう坂道を降り、川沿いの道を南へと進みます。吉井橋の架かる国道245号を渡ると、桜並木が続き、やがて大沢川緑地が現れました。芝生広場や遊具等が整備され、近所のお母さんたちが幼児を遊ばせています。川の反対側も親水公園となっていて、老人があずま屋に集って談笑しています。川にはまだ新しい瀟洒な歩行者専用の木橋が架かっています。

  公園を過ぎると次第に川から離れ、「仁叟(じんそう)寺300m」と書かれた案内板に従って左折します。広大な敷地を有する仁叟寺は、応永年間(1394−1428)奥平で創建され、大永2年(1522)現在地に移転となりました。寛文3年(1663)建立の総門をくぐると、宝暦11年(1761)建立の大きな山門が続きます。威圧感のある荘厳な造りで、見応えがあります。山門の先には、大永2年の移転時に建立された大きな本堂があります。優美な曲線を描く屋根に整然と並んだ甍が、初夏の日差しを反射して美しく輝いています。敷地の東側には、斜面を効果的に利用して作られた大きな庭「欣正園」があり、散策を楽しむことができます。

仁叟寺スケッチ

仁叟寺

  仁叟寺を後にして再び歩き始めると、すぐに竹林が現れます。距離は短いのですが、密生した竹の間をうねうねと伸びる道は、日の光が届かず涼しくて、竹林を吹き抜ける風の音に耳を澄ましながらしばらく休憩しました。地面からにょっきりと生え出したばかりの筍の姿が目に入ります。竹林を抜けると、舗装された田舎道が続きます。何の変哲もないありふれた道ですが、初めて通る道はやはりどこか新鮮に感じられます。やがて、こじんまりとした薬師塚古墳が現れました。すぐ横の農地に、壊れた冷蔵庫や自動販売機などが数台身を寄せ合うようにして置かれているのが、哀愁を誘います。これもまた機械文明の墳墓なのかもしれないなあ、などと愚にもつかないことを考えながら、今はなき多胡館(約900年前の建物跡)を通り過ぎ、小高い城之内公園に歩を進めます。公園は高台になっていて、市街地を一望することができます。見事な石垣の墓所を抜けると、延徳2年(1490)開基の延命密院が現れます。外壁は美しい白壁で、その先にある石段とともに趣のある佇まいをしています。

  石段を降り切ると、すぐ先に国道245号が見えるのですが、その手前を245号に平行して走っている南裏通りに歩を進めます。間もなく右側に現れる古い医院の建物と板塀は、その横に伸びる路地と併せて、じっくりと鑑賞したいスポットです。やがて天正14年(1586)創建の法林寺が現れます。ここからは、交通量の多い県道高崎・万場・秩父線を吉井駅に向かって歩きます。吉井駅舎は、古びた小さな建物ですが、どこか郷愁を誘う佇まいをしています。

多胡石煎餅スケッチ

多胡石煎餅

  最後に新町通りを経てスタート地点である資料館へと向かったのですが、かつては賑わいを見せていたと思われる駅周辺の商店街は、残念ながら店じまいしたところが多く、お昼をだいぶ過ぎていたので、食事のできるお店を探していたのですが、見つかりません。家族への土産を買うのも兼ねて、風月堂という菓子店に立ち寄り、食事のできる店がないか聞いてみたところ、おかみさんはわざわざ思い当たる3店ほどに電話を掛け、営業しているかどうか確認してくれました。丁寧な応対に感じ入り、お礼がてら菓子の詰め合せを買おうとしたところ、食事ができる店を探していたのだろうから別に菓子を買わなくていいですよ、と商売っ気のない返答で、家族への土産にすると説明すると、今度は、バラ売りするので必要なだけ買えばいいですから、とまたまた商売っ気のないアドバイス。その言葉に甘え、「多胡石煎餅」など幾つかの菓子をバラで買ったのですが、採算が取れるのか心配になるほどオマケをつけてくれました。私は取材とはおくびにも出さず、観光で訪れたとしか話していなかったことからすると、きっとおかみさんは訪れた人誰にでも同じように接しているのでしょう。吉井町を好きになって帰ってもらいたいという郷土愛と、もてなしの心がこもった応対に、すっかり嬉しくなってしまいました。こんな気持ちの良い触れ合いこそが、街なかの商店で買い物をする魅力のひとつなのでしょう。最後に、風月堂のおかみさんが教えてくれた亀の屋でうどんを食べ、散歩を締めくくりました。

文/企画課 新井基之
画/新井紀子

●今回ご紹介したコース