群馬県信用保証協会

わたらせ渓谷鐵道周辺の道

折々の散歩道

鉄道文化をゆっくりと味わう

みどり市・桐生市

上神梅駅舎

貴船神社

 わたらせ渓谷鐵道は、JR足尾線の時代から、長いこと赤字による存廃問題に晒されてきました。関係者や地元住民が試行錯誤し懸命な努力を続けている様子が、マスコミ等により折に触れ伝えられていますが、「わたらせ渓谷鐵道」というひとつの大きな文化を保持していることは、私たち群馬県民にとって大きな誇りであり、存続を祈らずにはいられません。

  今回のちいさな旅のきっかけは、上神梅(かみかんばい)駅舎を写した一枚の写真を見たことでした。緑の山並みを背景にぽつんと建つその駅舎の佇まいは、懐かしさと侘しさが入り混じり、旅愁を誘ってやみません。さっそく、上神梅駅を起点に、渡良瀬川沿いを花輪駅まで歩き、列車で上神梅駅まで戻ってくるプランを立てました。

  上神梅駅前にある広い駐車場に車を停め、まずは駅舎を鑑賞します。大正元年(1912)足尾鉄道の全通開業時に建築された木造のちいさな駅舎は、その後ほとんど手を加えられることなく、往時の姿を良く保っています。塗装の施されていない白木作りで、長い間風雪に晒され続けて古色を帯び、木目がくっきりと浮かび上がり、どこか神さびた風情さえ漂わせています。現在は無人駅ですが、旧事務室は「カラオケステーションスタジオ510」と看板が掲げられ、地元住民の社交の場となっているようです。

  しばらく駅舎を眺めてから、貴船神社に向けて歩き始めます。駅前の団地を通り過ぎると、渡良瀬川に架かる貴船橋を渡ります。梅雨時ですが川の水量は少なく、澄んだきれいな色をしています。橋を渡りきると現れる急坂を登り切ると、県道257号にぶつかるので、左に曲がります。駅から15分ほどで貴船神社に到着しました。初詣には県内でも一、二を争う人出で賑わいますが、梅雨のこの時期は人影もまばらで、境内は森閑としています。由緒は、平安時代の天暦10年(956)まで遡り、東国(関東地方)がひどい旱魃に襲われたとき、山城国(京都)の貴船神社の祭神タカオカミ神の分霊を奉り降雨と五穀豊穣を祈願したところ、叶えられたため、分社したと伝えられています。現在地に建立されたのは寛文8年(1668)のことで、焼失により明治40年(1907)に再建されました。社殿をはじめとして境内の建物は、白壁と朱色の柱に外観が統一され、屋根の甍や木々の緑と相俟って、美しい色彩の調和を見せています。

貴船神社

上神梅駅舎

  お参りを済ませてから、県道257号を水沼駅方面へと歩を進めると、いきなり短いトンネルが現れます。トンネルの上には神社の建物が見えています。なんとこの道路は神社の下を通っていたのです。トンネルを抜けると眼下に渡良瀬川を望む道が続きますが、災害復旧工事のため全面通行止めとなっていました。山間でほかに抜け道もなく、プランの練り直しを余儀なくされました。とりあえず上神梅駅まで戻って水沼駅まで列車で移動し、水沼駅から花輪駅まで歩くことにしました。予期せぬ変更ではありますが、そもそも自由気まま、臨機応変こそが散歩の要諦です。

 列車の本数が少ないため、上神梅駅では40分も待ち時間がありました。待合室に腰掛け文庫本を読んだり、ホームの端から端まで丹念に観察したり、この無為の時間もなかなか良いものです。1両編成の茶色い列車は思いのほか混んでいて、座れないほどでした。水と緑に覆われた豊かな自然の中を、ちいさな列車にゴトゴト揺られながら走っていると、まるで遊園地の古いアトラクションを楽しんでいるような気分になってきます。

  温泉センターを併設していることで知られる水沼駅に降り立ち、国道122号を花輪駅方面へと歩き出します。国道122号は交通量が多く、駅前はちいさな商店街となっています。しばらく進むと右手に県道345号が分岐しますので、そちらに歩を進めます。急な下り坂で、右側は線路越しに渡良瀬川を見下ろすことができます。ちいさなダムがあり、ピーコックグリーンの水を湛えています。道端に淡い赤紫色をしたホタルブクロが咲いています。線路を越えると道は平坦となります。石の加工場が2軒並んで建ち、様々なサイズと形の石が積み重なっています。この辺りは花崗岩の産地として知られていることを思い出しました。

  この先は静かな住宅街となり、かつて銅(あかがね)街道の花輪宿として賑わっていたことを窺わせる古い街並みも少し残っています。道端に立つ文化4年(1807)制作の善雄(ぜんのう)寺宝篋印(ほうきょういん)塔は市指定重要文化財となっていて、その奥には、近隣の路傍に立っていたのを集めたものか、庚申塔がずらりと並んでいます。更に進むと、市指定重要文化財の御用(ごよう)銅蔵(どうくら)が現れます。歴史の重みを感じさせる、白壁の美しい銅蔵は、代々銅問屋を務めた高草木家の敷地内にあり、道から眺めることができます。

うさぎとかめ

 ほどなくして到着した花輪駅の駅舎は、最近建て替えたらしいシックな建物です。脇には花崗岩のオブジェを配した公園があり、ホームには、石原和三郎氏の作詞した童謡「うさぎとかめ」にちなんで、兎と亀の石像が建っています。上神梅駅まで戻る列車内では、運転士が朴訥な口調で観光案内をしていて、上神梅駅に降り立つと、旧事務室からは演歌とにぎやかな笑い声が響き渡ってきます……。

  巷では現在「ゆるい」というキーワードが流行していますが、このようなアットホームで泥臭い旅には、他では得がたい「ゆるさ」があります。「わ鐵のゆるタビ」は現代のトレンドにマッチしているように思え、広報戦略次第では人気を呼ぶのではないでしょうか。

文/企画課 新井基之
画/新井紀子

●今回ご紹介したコース