群馬県信用保証協会

四万温泉

折々の散歩道

清流と緑に彩られた温泉情緒

中之条町

積善館

積善館

 群馬県を代表する温泉地のひとつである四万温泉は、山懐(やまふところ)に抱かれるように四万川沿いに温泉街が形成されています。温泉街は南北に長く、下流である南側から、温泉口、山口、新湯、ゆずりは、日向見の地区に分かれます。有名な温泉地には、大きな旅館が林立し、パワフルで猥雑な雰囲気の温泉街がつきものですが、四万温泉の温泉街は、四万川の清流と緑の木々に囲まれて、自然と溶け込むようにゆるやかに寄り集まっています。個人的には、ごちゃごちゃとした猥雑な感じの温泉街も好きなのですが、このところ人気の高まっている四万温泉の魅力のひとつは、懐かしさを感じさせる、のどかで落ち着いた温泉情緒にあるようです。

 今回は、四万の温泉街をのんびりと散策することにしましょう。
午前10時半頃に到着し、温泉協会の裏手にある広い駐車場に車を停めました。最初に「柏屋カフェ」に立ち寄り、弁当を作ってもらいました。以前ここで食べたカレーライスがとてもおいしかったので、メニューに書かれていた弁当(サンドイッチのランチボックス)をいつか頼んでみようと思っていたのです。10分ほどでできあがった弁当を手に店を出ると、チェックアウトを済ませたばかりとおぼしき観光客で温泉街は賑わっていました。川沿いの道を少し行くと、萩橋の横の川原に、小さいながらも立派な外湯(共同浴場)「河原の湯」があり、その先には、積善館の情緒ある木造の建物が現れます。積善館は元禄4年(1691)から湯宿を営み、現存する日本最古の湯宿建築として県指定重要文化財となっている本館のほか、国登録有形文化財の建築物を3件有している老舗旅館です。特に、川に面して建つ前新(前新館)は、手前にある赤い欄干の橋と相俟って、映画「千と千尋の神隠し」の舞台となった油屋に似ていると評判になっており、この日も、橋の上で観光客が前新を背景に記念撮影をしていました。

 積善館の前を右に折れると、両側に土産物屋や飲食店が立ち並ぶ路地風の細い道が現れます。スマートボール屋からは演歌が流れ、射的屋の蛍光灯は赤やら青やらのどぎつい光を放ち、温泉街に味のあるアクセントを与えています。以前、子供と一緒に射的をして、ひとつも取れず(残念賞をもらいましたが)、未だリベンジを果たしていなかったことを思い出し、再訪を誓いました。

小泉の滝

小泉の滝

 落合橋を渡ると、右手に山の緑が迫り、左手は四万川を見下ろせる静かな道となり、次第に川から遠ざかると、ゆずりは地区に至ります。六角形の個性的な姿の「ゆずりは飲泉所」で温泉を飲み、渇いたのどを潤しました。やがて再び川に近づくと、川沿い「滝見園地」と名づけられた大きな屋根つきのウッドデッキがあり、対岸に、日向見川が滝となって流れ込んでいる様子を眺めることができます。この滝は「小泉の滝」と呼ばれ、落差は小さいのですがなかなか端正な姿をしています。この近辺は紅葉の名勝として知られ、楓仙(ふうせん)峡と名づけられています。

 木々の梢越しに渓谷美を眺めながら歩くと、日向見地区に入り、T字路に突き当たるので、左に折れます。のどかな温泉街を通り抜けた突き当りには、国指定重要文化財の薬師堂があります。薬師堂の歴史はとても古く、慶長3年(1598)、領主真田伊豆守信幸の武運長久のために建立され、現存する寺院建築としては県内最古のものです。今どき珍しい茅葺の屋根と、長い間風雨に晒され続けた木の柱や壁の風合いが、強い存在感を放っています。そのすぐ前には、薬師堂よりも一回り小さい、しかし薬師堂に決して引けを取らない味わい深い佇まいをしたお籠(こもり)堂が建っています。お籠堂は、慶長19年(1614)に湯治客が病気を治すための宿泊施設として建てられたもので、町指定重要文化財となっています。ふたつの古い小さな建物が並んでいるさまは、まるで年老いた夫婦が仲睦まじく肩を寄せ合っているかのようで、微笑ましい気持ちになりました。

日向見薬師堂前のお籠堂

日向見薬師堂前のお籠堂

 先ほどのT字路まで戻り、反対方向に進むと、平成11年に竣工した四万川ダムの堤体が現れます。高さ89.5メートル、長さ330メートルの堤体は、近づくほどに圧倒的な大きさで迫ってきます。ダムの下は日向見公園として整備されていますが、そもそもこのダムは、景観や周辺整備に配慮をした「地域に開かれたダム」の指定を受け作られました。そのため、堤体は石積み風の化粧型枠による装飾がなされるなどデザインに工夫が凝らされ、ダム湖である奥四万湖の周囲には、広場や公園が点在するなど、観光面でも見応えのあるスポットとなっています。堤体の下から旧坂を息を切らしながら登り詰めると、堤頂に到着します。三方を緑滴る山々に囲まれ、湖水は驚くほど鮮やかなコバルトブルーをしています。この美しい湖の色は、四万温泉のイメージアップに大きく貢献していることでしょう。湖畔にある四万せせらぎ資料館を観てから、その横の高台にあるベンチに腰掛けて、湖上を吹き渡る風を受けながら弁当を食べました。湖畔を1周することもできたのですが、今回はここで折り返し、来た道を戻りました。寄り道しながらのんびり歩き、都合3時間半ほどの行程でした。

 最後に、お土産として、高田屋と楓月堂で温泉まんじゅうを買って帰りました。高田屋のはこし餡、楓月堂のはつぶ餡なので、食べ較べる楽しみがあります。どちらも甲乙をつけがたいおいしさでした。

文/企画課 新井基之
画/新井紀子

●今回ご紹介したコース