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本宿 上州姫街道

折々の散歩道

静かに時を刻み続けるまち並み

下仁田町

本宿のまち並み

本宿のまち並み

 町、あるいはまち並みは、生き物にたとえられることがたまさかあります。建物はあたかも細胞のように生成や消滅を繰り返し、まち並みはそれらの有機的な集合体として形成されている、というわけです。日々の変化はたとえ小さくとも、それが長い年月にわたり積み重なると大きな変化になり、ふとした拍子に驚かされることになります。昨年、大学時代に住んでいた東京の私鉄沿線の町を18年ぶりに訪れたのですが、まち並みの変化が余りにも激しくて、自分の記憶の中のまち並みと目の前のそれとが一致せずに、まるで初めて訪れた場所であるかのような錯覚にとらわれました。皆さんもこのような経験をしたことが案外あるのではないでしょうか。

  建物も道も使っているうちに段々とガタがくるので、随時普請が必要になるのは当然のことですが、少しずつ補修しながら長く使い続けるのか、新しいものに建て直すのかといった判断は、非常に重要かつ難しいものです。その判断は建物単位では個人の恣意によってなされるので、なかなか意識統一を図るのは難しく、行政による啓蒙やルール化にも限度があり、その結果、まち並みに個性や統一感がなくなってしまうことは残念でなりません。ともあれ、心地よく歩けるまち並みがあるということは、とりも直さず、その地域の民度の高さを表しているといえるでしょう。

  今回訪れた下仁田町の本宿は、古いまち並みが自然な形で残されていて、なかなか心地よい散歩ができました。
下仁田の中心地を通り越して、国道254号を更に車で数キロ西に進むと、右に分岐する道が現れます。分岐点には「歴史を偲ぶ上州姫街道 本宿」と書かれた大きな案内板が立っており、手前に駐車スペースがあるので、ここに車を停めて歩き始めます。右手に山並みを、左手に鏑川を眺めながらしばらく進むと、まち並みが現れます。古い木造の2階建ての建物が軒を連ね、白壁の蔵造りのものもちらほらと目につき、中には黒塗りの立派なものもあります。人通りはほとんどなく、時折り車が通るだけの、静まり返った古いまち並みの中に身を置いていると、まるで時間が止まっているかのような不思議な気分になりました。

  そもそも本宿は、文禄2年(1593)に西牧関所が設置されて以来、中仙道脇往還である姫街道(下仁田道)の宿場町として賑わっていましたが、明治以降、国道のルートから外れたこともあり、訪れる人も少なくなり、静かに時を刻み続けてきました。
まち並みの途中、「長楽寺参道」と書かれた石柱が立っているので、右折して坂道を登り詰めると、立派なシダレザクラが目に入ります。樹高8.0メートル、樹周2.4メートル、江戸初期から中期にかけて植えられたもので、樹齢は推定250年とされています。訪れたのは初秋だったため葉桜だったのですが、なかなか美しいプロポーションをしています。長楽寺は建久3年(1192)建立と800年以上もの歴史を有し、本殿は何度か焼失しているためさほど古いものではないようですが、緑豊かな山並みを背に佇んでいる姿には、格調と鄙びた味わいが同居しており、この町に相応しい寺であるように思いました。

本宿集会所からの眺め

本宿集会所からの眺め

 長楽寺のすぐ下には本宿集会所があり、高台になっているため、本宿のまち並みを見下ろすことができます。集会所前の広場には、滑り台などの遊具がいくつか設えてあり、初秋の木漏れ日を浴びて静まり返っている様子を眺めていると、深い旅愁が身を包むのを感じました。どうやら懐かしい風景や鄙びた風景に接すると、ひとは旅愁をかきたてられるようで、郷愁と旅愁は非常によく似た心のありようをしているように思えます。

常磐橋から見たまち並み

常磐橋から見たまち並み

 再び街道に戻り、古いまち並みの中をしばらく進むと、活性化センターが現れます。情報収集の場として活用できるほか、散策の際にはここに車を停めてもよいでしょう。活性化センターのすぐ先を左に曲がると、鏑川に架かる常盤橋があります。橋の上や、対岸にある鏑神社の周辺からは、街道沿いに並んでいた建物の裏側を見ることができるのですが、これらの建物は川岸の急斜面に建っているため、街道から見ると2階建て、川から見ると3・4階建てと、面白い造りをしており、これも見所のひとつです。

  古いまち並みが見られるのはこの辺りまでの500メートルほどの区間ですが、周辺まで足を伸ばして歩き回ってみると、下仁田名物であるコンニャクやネギなどの畑を見ることができます。コンニャクの葉は白みがかった薄い緑色をしていて、広大なコンニャク畑には、まるでさざ波立つ海原のような清涼感があります。

  帰り際、古いまち並みの中に和菓子屋が2軒あったので立ち寄りました。古月堂では本宿どうなつを、嶋屋本店ではかすてらと3種類のまんじゅうを買いました。どれもおいしかったのですが、特にかすてらは、菓子の品評会で受賞した昭和3年当時の製法で今も作り続けているもので、素朴ながらもなかなかの逸品です。ほかにも、時間の都合で寄れなかったのですが、おいしそうな蕎麦屋や居心地のよさそうな旅館などもあり、歴史ある町の底力が垣間見えます。

  ここ数年来、地元の人たちの間でまちおこしの機運が高まっているようですが、魅力的な佇まいをした空家や空店舗が点在しているので、それらをうまく生かしたカフェや雑貨屋、ギャラリーなどが誕生すれば、さらに注目を浴びることでしょう。静かに時を刻み続けて熟成された古いまち並みが、これからもゆっくりと熟成を続けていくことを願います。

文/企画課 新井基之
画/新井紀子

●今回ご紹介したコース