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城沼と館林駅前周辺の道

折々の散歩道

自然と歴史が綾なすまち並み

館林市

 昨年(平成18年)10月に出版された「美しい都市・醜い都市」(五十嵐太郎著、中公新書ラクレ)に、興味深いエピソードが紹介されていました。それは、著者が勤める大学の建築学科の一年生を対象に、美しいと思う建築とそうでないと思う建築を写真で撮るようレポート課題を出したところ、新しい建築が美しく、古い建築は美しくないとする事例が数多く見受けられたというものです。建築の持つ社会的意義をある程度理解しているはずの建築学科の学生でさえこのような捉え方が主流であることからすると、一般市民にあってはその傾向はより顕著であることが推測されます。これは、なかなか由々しき問題です。建築の美しさを「新・旧」といった尺度で判断しようという価値観は、堅牢性に欠ける木造建築が主流であった我が国の建築史を慮った場合、ある程度はやむを得ないのかも知れませんが、古さの裏には、歴史や伝統や物語など、金銭的価値では推し量れない財産が宿っています。それらを読み取り、美しさの判断要素に加えるという作業は、ひとえに鑑賞者の教養と想像力に依っているわけですが、果たして私たちは、大切な何かを失いつつあるのではないか、といささか心配になってきます……。

尾曳稲荷神社

尾曳稲荷神社

 さて、今回は、館林市を訪れ、「古さ」と「新しさ」が調和するまち並みを散策することにしましょう。最初に、つつじが岡公園に接している城沼を一周することにして、市役所前の駐車場に車を停め、歩き始めます。三の丸芸術ホールのすぐ南には鶴生田川が流れており、川沿いには桜並木の遊歩道や広場が整備されています。ゆるやかなアーチを描く歩行者専用のふれあい橋を渡り、川の南側を進みます。高架になった尾曳橋の下をくぐり抜けると、川は城沼に流れ込みます。東西に細長い帯状に伸びる城沼は、ハスの群落で知られています。以前、ハスの開花期に、遊覧船を乗りに来たことがありますが、夏の日差しを浴びて旺盛な生命力を発散していたハスたちも、今は、冬空の下、花も葉も落とし、茶色く枯れ果てています。しかし、ぽきぽきと折れ曲がった無数の茎が織りなす光景は思いのほか美しく、まるで綿密に構成された抽象画のようです。最近は、大繁殖が問題視されているようですが、適切に管理育成していくことが望まれます。沼沿いの歩道の右側には、有名なつつじの群落が広がっています。開花期には大勢の観光客で賑わいますが、この日はほとんど人影がありません。

 カルガモやマガモ、白鳥など、何種類もの鳥たちが仲良く寄り集まっている一角がありました。餌場なのでしょうか。数百羽の鳥たちが、沼面ばかりでなく地面も占拠し、あたかも「鳥学校の全校集会」の趣きがあります。沼を一周する間に、一千羽を超えるであろう水鳥たちの姿を見ることができましたが、ここは鳥たちのサンクチュアリといえるようです。さくら橋、つつじ橋を経て対岸に渡ると、城沼つつじ緑道と名づけられた快適な遊歩道が続きます。ハス畑(ハス池)では、農家の方が、レンコンの収穫作業をしていましたが、冬の散策ならではの光景です。やがて広い社域を有する尾曳稲荷神社が現れます。天文元年(1532)館林城(別名尾曳城)の築城とともに守護神として造営されたもので、城主赤井照光が子供にいじめられていた子狐を助けたところ、稲荷であった親狐が恩を感じ、築城に適した場所を尾を曳いて先導した、という伝説が残されています。大きな木々に覆われた社域は、今でも狐が住んでいそうなほど深閑とした空気に包まれています。

 尾曳橋をくぐった先の第二公園には、最後の館林藩主秋元家の別邸があり、広々とした芝生を目の前に、縁側の陽だまりがなんとも心地よさそうです。すぐ先には田山花袋記念文学館と向井千秋記念子ども科学館が並び、その裏手には館林城本丸土塁が残されています。道の反対側にある館林第二資料館では、萱葺屋根の武家屋敷である田山花袋旧居と、明治末期の擬洋風建築である旧上毛モスリン事務所が隣り合っていて、この周辺は「歴史の森」と位置づけられています。

旧上毛モスリン事務所

旧上毛モスリン事務所

 館林市役所と文化会館の裏手を進むと、復元された館林城土橋門があります。旧館林城は城沼を要害とし、現在の市役所を中心に城域が広がっていて、周辺に遺構が点在し、歴史の息吹をそこここに感じ取ることができます。市役所前の交差点から東武鉄道館林駅へと続く大通りに歩を進めます。駅前通りは再開発の真最中で、新しいまち並みが生み出されつつあります。駅前にある「花山うどん」でお昼を食べてから、館林駅に向かいます。懐かしさを感じさせる昭和12年築の駅舎のほか、昭和2年築の変電所も見所のひとつです。

旧二業見番組合事務所
旧二業見番組合事務所

 ここからは「まちづくりを考える研究グループ ロマンロード」のHPで入手した「まちなか散策ガイド」に基づいて、裏通りを散策します。瓦屋根付きの立派な井戸「竜の井」、江戸時代末期の造り酒屋店舗で国の登録文化財である「毛塚記念館」、まちの風景に溶け込んだ「青梅天満宮」「青龍神社」、屋根の形が個性的で存在感のある昭和13年築の「旧二業見番組合事務所」、古い町家の「外池商店」、江戸後期に作られた武家屋敷の市指定重要文化財「旧館林藩士住宅」等……。再開発の進む駅前通りの新しいまち並みも、一歩裏に踏み込めば、このように歴史的な建築物が点在しています。これからも「新しさ」と「古さ」の調和をうまく図っていくことが、魅力的なまち並み作りのカギになることでしょう。

  最後に、市役所の前にある寛永年間創業の「三枡家總本舗」で麦落雁を土産に買い、駐車場へ戻りました。都合4時間半の散策でした。

文/企画課 新井基之
画/新井紀子

●今回ご紹介したコース