群馬県信用保証協会

中山道松井田宿

折々の散歩道

さりげないまち並み、もてなしの心

安中市

安中市文化財資料館(旧松井田町役場)

安中市文化財資料館(旧松井田町役場)

 景観論争で近年話題に上ることの多い東京の日本橋に、先ごろ足を運んできました。日本橋の真上には首都高速道路が走っているのですが、政府の有識者会議は、昨年、日本橋に空を取り戻させるべく、江戸橋−竹橋間の約2キロを地下に移設する方針を決定しました。東京オリンピックの開催に合わせ1963年に完成した首都高は、当時、日本の繁栄の象徴として考えられていましたが、現在の視点から見ると、確かに、いささか付け焼刃的な計画であったようにも思えます。しかし、その一方で、建築史家の五十嵐太郎氏が主張するように、日本橋近辺の首都高は、技術的には当時の粋を集め、造形的にもダイナミックで魅力があり、外国人や若い世代の中には、このような光景を美しいと捉える感性が生まれてきています。さて、実際にこの目で見た日本橋は、単純にカッコイイと思いました。コンクリート護岸された広い水路を圧迫するように道路が覆いかぶさっている様子は、まるでSF映画のワンシーンのようです。「高度成長期遺産」といった観点で残してほしいとも思うのですが、日本橋という歴史的な特性を考えた場合、判断に迷うところです。

 お江戸日本橋は、中山道、東海道、日光街道、甲州街道、奥州街道の五街道の起点でしたが、このうち群馬を通っているのは中山道です。街道沿いの景観は、長い年月を経てさま変わりしていますが、よくよく目を凝らせば、古(いにしえ)をしのばせる建物やまち並みが今もなお点在しています。さて、今回は、中山道の宿のひとつ、松井田宿を訪れてみましょう。

 最初に、安中市文化財資料館に車を停め、資料館の建物を鑑賞します。昭和31年(1956)に松井田町役場として竣工したこの建物は、著名な建築家白井晟一(1905‐1983)の設計によるもので、氏の代表作のひとつとされています。それは、この建物が、当時建築界で巻き起こった「伝統論争」(西洋の近代主義と日本の伝統をいかに融合させるべきか)において、氏が主張した「縄文的なるもの」の実践例であることや、昭和36年に受賞した高村光太郎賞の対象作品のひとつとされていることからも窺えます。2階のバルコニーの白い手摺が横に長く延び、白くて太い列柱が立ち並んでいる外観は、戦後間もない当時としてはとても斬新なものに映ったことでしょう。「畑の中のパルテノン」と称されたそうですが、現在、建物の周辺は住宅街、商店街となっています。しかし、館内に展示されている竣工当時の写真を見ると、「畑の中のパルテノン」という言葉が大袈裟ではなかったことが分かります。役場は平成4年に移転し、平成12年から資料館として利用されていますが、メンテナンスが充分といえず、残念ながらくすんだ印象を受けます。3ヶ月ほど前の新聞に、来年度(平成20年度)安中市が美術・博物館として整備する計画であるとの記事が掲載されていましたが、建設当時の姿に忠実に修繕すれば、きっと見応えのある観光スポットとなることでしょう。

安中市松井田商工会館(旧松井田警察署)

安中市松井田商工会館(旧松井田警察署)

 資料館で入手した「松井田宿まち歩き」(松井田町商店連盟作成)という地図を参考に、散歩コースを組み立てました。資料館を出て県道33号へと歩を進めると、すぐに安中市松井田商工会館が現れます。この建物は、群馬県技師の設計により昭和14年(1939)に松井田警察署として建てられ、帝冠様式の格調ある佇まいは、なかなか見応えがあります。安中市はこの建物もまちの活性化のために有効活用を考えているそうですが、確かに、歴史的意義のある建物が近接してあるのですから有効利用しない手はありません。

 県道33号はかつての中山道松井田宿で、のどかで懐かしい昭和テイストの商店街の中に、江戸期や明治期のものと思われる建物が点在しています。残念ながら二つずつあった本陣と脇本陣は現存しませんが、県道33号を西から東へと歩き、時おり現れる木造の古い旅籠風や商家風の建物を眺め、往時の様子を想像するのは、なかなか楽しいものです。

不動寺仁王門

不動寺仁王門

 下町の信号を左折して、県道33号に並行して北側に走る裏道を、東から西へと歩きます。静かな住宅街をしばらく進むと、不動寺が現れます。江戸初期の建築である弁柄色をした仁王門と、門の左手前にある三基の石塔婆(板碑)は、ともに群馬県指定重要文化財となっています。さらに進むと、今度は松井田八幡宮が現れます。鬱蒼とした杉木立の中にある、寛永年間(1624-34)頃に建てられた本殿は群馬県指定重要文化財です。資料館の前を通り過ぎ、道なりに進むと県道33号にぶつかるので、横切って直進します。間もなく大きな瓦屋根が見事な安中市松井田支所が現れるので、左折して、今度は県道33号に並行して南側に走る裏道を、西から東へと歩きます。名所旧跡があるわけではない地味な道なのですが、車が通れないほど狭い路地を抜けたり、小さな神社や庚申塔を見つけたり、碓氷川を眼下に眺めたり、といった具合に、ニュアンスに富んだ味のある道です。

 県道33号の下町の信号に出ると、最初に通ったのと逆コースで県道33号を戻ります。途中、日新堂というケーキ屋に立ち寄り、話好きの奥さんにあれこれ話を聞きました。家族へ土産を買い、日新堂の奥さんに古い瀟洒な洋館だと紹介された武井医院を鑑賞に行ってから(一度通ったのですが見過ごしていました)、同じく奥さんに紹介された幸楽という中華料理屋でラーメンとギョーザを食べました。最後に、幸楽の女主人から教えてもらった、二軒先にある、群馬県信用組合発祥の地だという立派な倉を併設した古い建物を眺めてから、帰路につきました。さりげないまち並みとともに、もてなしの心で散歩人に接する商店街の方々の姿が印象に残りました。

文/企画課 新井基之
画/新井紀子

●今回ご紹介したコース