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多々良沼周辺の道

折々の散歩道

自然と芸術に触れ合えるみち

邑楽町・館林市

多々良橋からの多々良沼の眺め

多々良橋からの多々良沼の眺め

 冬になると、池や沼に足を運びたくなります。寒さをこらえつつ、澄みわたる水面を眺めていると、いつしかこころが研ぎすまされ、透きとおっていくのを感じます。流動体である水は、常にその形を変えていますが、たとえば川は、常に水が流れているので、水の「動」の姿を現しており、一方、池沼は、水の流れをほとんど感じさせないので、水の「静」の姿を現しているといえるでしょう。「動」の川も、「静」の池沼も、四季折々にそれぞれ魅力的な表情を見せてくれますが、個人的には、やはり、冬場の池沼の、青空を映しこみ、鏡のように澄みわたる、静かな水面を眺めるのが、いちばん気に入っています。

 今回は、邑楽町と館林市にまたがる多々良沼の周辺を散策しましょう。多々良沼の北端にある、野鳥観察棟横の駐車場に車を停め、歩き始めます。多々良沼は、周囲約7キロメートル、面積約75ヘクタールで、かつては倍の面積がありましたが、終戦直後食糧増産のため北東部を干拓したことなどにより、現在の大きさになりました。名の由来は、万寿2年(1025)、宝日向なる人物が北岸でたたらを設け、鋳物作りを始めたことに由来しています。農業・生活用水として利用されているほか、ヘラブナの釣り場や白鳥の飛来地として知られています。白鳥は、昭和53年に初飛来して以来定着し、例年11月上旬に飛来し、3月中旬まで留まります。1月下旬から2月上旬に数がもっとも多くなり、ここ数年間は100羽前後(平成17年度は異例的に601羽)を記録しています。私が訪れたのは12月下旬だったのですが、まだ20数羽しか飛来しておらず、この日の散策では、数羽しか確認できませんでした。

 野鳥観察棟の辺りから沼を眺めると、手前には、ボート乗り場の木製の桟橋が伸び、その周囲にはカモなどの水鳥たちが思い思いにからだを浮かべ、沼の先に目をやると、半島状に突き出した場所に建つ浮島弁天神社の赤い社殿が鮮やかなアクセントとなり、一幅の絵画のような美しい光景が広がっています。西に向かって歩き始めると、広大なヨシ原に覆われて沼は見えなくなります。江尻橋を渡ると、県立自然公園おうら創造の森が現れます。さまざまな樹木が植えられ、散策路が設けられており、花の少ない冬場なので彩りに乏しかったのですが、紅いツバキや黄色い柚子の実が印象的でした。

中野沼

中野沼

南に下るとすぐ右側に中野沼が現れたので、寄り道し、一周することにしました。中野沼は東沼と西沼のふたつに分かれ、周囲は中野沼公園として整備されています。西沼は希少植物であるマミズクラゲなどが生息し、自然保護のため釣りは禁止されていますが、東沼には沼面の間近に木道が設置され、数名の太公望が釣り糸を垂らしていました。中野沼の向かい側には白鳥が多く集まるガバ沼があり、この日は残念ながら白鳥の姿は見つけられなかったのですが、数百羽もの水鳥たちが集っており、なかなか圧巻な光景です。

再び南へ下り、新田橋を渡って左折し、孫兵衛川に沿って半島部を東へと進むと、やがて鵜古城跡を整備した多々良沼公園が現れます。鵜古城は、鎌倉幕府没落の際、執権北条高時の弟である僧四郎慧性、荒間朝春らがこの地に逃れてきて、元弘3年(1333)に築城したもので、天正18年(1590)に館林城落城とともに廃城となりました。城を構えただけあって風光明媚で、土塁や空堀の遺構が往時を偲ばせます。園内には、ゆるやかなカーブを描いて130メートルもの藤棚が作られており、開花期である5月の紫色のトンネルは一見の価値がありそうです。半島の先端部には、慧性により勧請された浮島弁天神社が建っています。

 多々良沼の南側を回りこむようにしばらく車道を歩くと、「多々良沼自然探勝路」「多々良小鳥がさえずる森」「館林自然環境保全林」と三つの案内板が設置された遊歩道の入り口が現れます。この遊歩道は、彫刻の小径とも呼ばれ、静かなアカマツ林の中、約2キロメートルにわたり40点近くもの彫刻が点々と設置されていて、一種の野外美術館となっています。具象的なものから抽象的なものまで、さまざまな傾向の作品が次から次へと現れ、どれも見応えがあるのですが、私のお気に入りは、市村緑郎「森の詩」、岡本敦生「地殻―NEST」、千木良康亘「循環する輪」です。山本正道「切株と少女」は、切株に腰掛ける可愛らしい少女像なのですが、首に薄茶色の毛糸のマフラーが巻きつけてありました。一見、誰かのいたずらかと思ったのですが、この少女像のために編んだのではないかと思わせるほどマフラーは像とよくマッチしており、そこからは善意と愛情が滲み出していました。作者や管理者にとってはこのような行為は望ましいことではないでしょうが、ほのぼのとした温もりを感じ取れました。

群馬県立館林美術館
群馬県立館林美術館

 彫刻の小径が終わると、左側に群馬県立館林美術館が見えてきます。第一工房の設計による建物は、広大な芝生を前景にし、アプローチには池が広がり、周囲の景観も含めて、非常に洗練された美しさがあります。併設されたレストランで遅い昼食を食べながら、美術館の外観を眺めていると、優美な曲線を描くプロポーションに、多々良沼公園の藤棚と印象が重なりました。「自然と人間」をテーマとする美術館の展示を鑑賞してから、多々良川沿いの遊歩道を多々良沼へとそぞろ歩き、スタート地点の野鳥観察棟まで戻りました。多々良橋から沼を望むと、西日を浴びた水面がきらきらと輝き、釣り人用の木道が美しいシルエットとなり浮かび上がっていました。

文/企画課 新井基之
画/新井紀子

●今回ご紹介したコース