群馬県信用保証協会

赤城南面のちいさな山々

折々の散歩道

山里の春をのんびりと味わう

富士見村・前橋市

九十九山

九十九山

 国道17号を前橋市街地から渋川方面へと車を走らせていると、関根町に差しかかったあたりから、右手にちいさな山が幾つか見えてきます。なだらかに広がる赤城山の裾野がほとんど平坦に近くなったところに、置き忘れられたかのようにぽっこりと盛り上がる、山と呼ぶには余りにもちいさな山々です。四季折々に表情を変える様子が美しく、以前からずっと気になっていたのですが、地図を広げて確認してみると、前橋市田口町の八幡山(標高169.8メートル)、橘山(同228メートル)、富士見村原之郷の九十九山(同172.0メートル)、横室の十二山(同283.6メートル)が、ちょうどよいバランスで四角形を描いているので、今回はこれらの山々を廻りつつ、山里の春の風景を楽しむことにします。

 4月中旬の晴天の日に散策に出かけました。富士見村横室にある横室古墳公園に駐車をして、歩き始めます。横室古墳公園は、陣場・庄司原古墳群(7基)のうち3基の古墳を整備公開しています。中心となる上庄司原1号古墳は、径14メートルの円墳で、ちいさな丘の上にたんぽぽが咲き乱れています。東側に目を投ずると、菜の花畑越しに十二山を間近に見ることができ、散り残った桜や気の早いツツジ、萌え出る若葉により、山は点描主義の絵画のように淡くやさしく彩られています。農地や人家の間を抜け、南側の登り口に歩を進めます。十二山の山頂には赤城神社が祀られていて、登り口には鳥居があり、333段の石段が山頂まで続きます。麓のあたりは竹林ですが、中腹から山頂にかけては見事なツツジの群落となっていて、早くもちらほらと咲き始めています。ゴールデンウィークの少し前にはツツジの盛りを迎え、燃え上がるような朱色に山が覆われます。足許に視線を移せば、紫色と薄紫色の二種類のスミレが楚々と咲き、散り落ちた桜の花びらが点々と広がっています。吉田兼好は「徒然草」第137段で、桜について、花の盛りを見るばかりでなく、咲く前の蕾の様子や地面に散りしおれている様子などを眺めるのもまた風情があるものだ、というようなことを書いていますが、確かに、白く染まった石段は踏むのが惜しいほどあでやかな風情があります。山頂には社殿があり、北側から自動車で登ってくることもできますが、やはり歩かなくてはこの山の良さは分かりません。春霞でぼんやりとした前橋市街地方面の眺望を楽しみながら、ここでお弁当を広げました。

 次の目的地である九十九山へは南に歩を進めます。今回の行程は、道が入り組んでいますので、3万分の1程度の道路地図を片手におおよその見当をつけながら歩くといいでしょう。路傍に咲くたんぽぽやダイコンバナ(ムラサキハナナ)、ナズナ、オオイヌノフグリ、ホトケノザなどを眺めながら歩を進めると、やがて木立に覆われた九十九山が見えてきます。北側の鳥居をくぐり、新緑が美しい小径を進むと、あっけないほど簡単に山頂に到着します。山頂にはこのような里山のご多分に漏れず神社(八幡宮)があり、開花期を過ぎた桜が名残惜しそうに少しだけ花びらをつけています。南に向かって山を降りると、大正用水が現れるので、用水に沿って北西へ進みます。土手には菜の花とダイコンバナが咲き乱れ、菜の花畑の向こうには、今しがた登ってきた九十九山が、新緑を身にまとって横たわっています。やがて、三面をコンクリートで固められた大正用水が細ヶ沢川の上を渡る、いわば「川の立体交差」のような面白い光景が現れます。このような川の交差は、慶応元年(1865)に長さ6メートルの石板をコの字形に組んで作られた、甘楽町の「吹上の石樋」が有名ですが、社会の営みにとって水の確保がいかに重要なことかを思い知らせてくれます。

塩原蚕種

塩原蚕種

 遠目ではちいさな森のように見え、近くで眺めるとその迫力に圧倒されそうな、国天然記念物である横室の大カヤを通り過ぎ、県道101号を西へ進むと、八幡山が見えてきます。中腹には田口町公民館と橘神社があり、その奥には福守神社、雷電神社のほか、数多くの石祠などが立ち並んでいますが、山の名からも分かるとおり、ここはかつて八幡宮で、明治時代に近隣の神社を合併し、橘神社となりました。山頂にはほとんど人が訪れないようで、余り整備されていません。山を降り、北へ向かう途中、群馬の近代遺産として忘れてはならない建物があるので少し脇にそれて見ていきます。広大な敷地にそびえる木造三階建の大きな建物は、シルクカントリー群馬を語る上で欠くことのできない「塩原蚕種」です。現在は廃業し、建物を公開しているわけではありませんので、門の外から眺めるだけですが、その歴史的意義と建物の風格からして一見の価値があります。

十二山のスミレ

十二山のスミレ

  暗渠となっていた大正用水が再び顔を出すので用水沿いに進み、中沢川との「川の立体交差」を過ぎるとまた暗渠となるので用水から離れ、前方に見えている橘山を目指してひたすら北に向かいます。橘山の南面は、最近木々を伐採し山桜の苗を植えるなど整備を進めています。山頂に至るルートは幾つかあるようですが、標識がないのでしばし迷った末に辿りつきました。眺望はなく、石祠が傍らにぽつんとあり、蜂の巣箱らしきものがたくさん置かれています。山頂から舗装された道を下ると、北関東循環器病院のすぐ南に出ました。東に見える十二山を目標に農道を進むと、田口町ほたるの里が現れます。ほたるの時期には毎年足を運んでいるものの、春に訪れるのは初めてだったのですが、ほたるの飛ぶ川はきれいに整備され、目の前には菜の花畑が広がっており、地元の方々の地域を愛する気持ちが伝わってきました。水が抜かれ干上がった中子沼の横を過ぎ、スタート地点である横室古墳公園へ戻りました。爛漫の春の息吹に酔いしれた一日でした。

文/企画課 新井基之
画/新井紀子

●今回ご紹介したコース