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中山宿と周辺の道

折々の散歩道

美しい農山村風景に歴史の息吹を感じ取る

高山村

「高山小学校前」バス停留所

「高山小学校前」バス停留所

 人と人との間には、相性の良い、悪いがあるように、人と風景との間にも、相性の良し悪しがあるようです。たとえば、複数で散歩をしているとき、自分の気に留まった風景に他の人はまったく無関心であったり、あるいはその逆もあったりするので、人それぞれ風景に対する感応力、目のつけどころが違うことが分かります。また、何の変哲もない風景に、ときどき、ふいに心惹かれてしまい、しかも、その惹かれた理由が自分でもよく分からないことがありますが、こんなとき「相性」という言葉を持ち出せば、なんとなく腑に落ちるような気がします。

 さて、今回は、三国街道の中山宿を中心に、周辺に広がる農山村風景を楽しむことにしましょう。例年よりだいぶ早く梅雨入りを迎えた6月上旬、曇天の日に散策に出かけました。県道渋川新治線を自動車で北上し、緑滴る車窓風景を眺めながら中山峠を越え、高山村役場を目指します。役場に車を停め、歩き始めると、すぐに現れる五領沢川に架かる柿平橋を渡り切ったところに、懐かしい佇まいをした木造の小さなバス停留所が目に留まりました。建てられてからどれくらい経過しているのか分かりませんが、永年風雨に晒された木の質感は味わい深く、背後に広がる緑したたる山並みに美しく溶け込んでいます。すぐ隣に目をやると、水を張られた田んぼがあり、植えられたばかりとおぼしき小さな稲の苗が、整然と、しかしどこかあどけない感じで立ち並んでいます。田んぼの畦道の傍らには、道祖神が二体並んでいます。ひとつは宝暦13年(1763)、もうひとつは明治40年(1907)の建立ですが、今ではどちらも同じように苔むして、二体の間に140年余りも時間の隔たりがあることなど微塵も感じさせないほど、仲良く身を寄せています。……この風景に出会えただけで今日の散策はもう充分だ、と思えるほど、妙に心の琴線に触れ、随分長いこと眺め続けました。多くの人が私と同じように感じるならば、この場所は観光名所化されていてしかるべきでしょうが、そうなっていないところをみると、やはり冒頭に書いた通り、これは私個人にとっての「相性の良い風景」に過ぎないのかもしれません。……ともあれ、散策は始まったばかりです。先を急ぐとしましょう。

 高山小学校の脇を通り、車の往来の激しい国道145号に出て、東へと進みます。間もなく左手に、「中山城跡」と書かれた案内板が現れます。北条氏により天正11年(1583)から14年(1586)頃に築城されたと案内板に記されていますが、城跡とおぼしき背後の丘陵状の林には鬱蒼と樹木が茂り、足を踏み入れるのは難しいようです。東側の田んぼからはかろうじて石積みを垣間見ることができますが、果たして城跡の一部なのか分かりませんでした。

 国道145号を引き続き進むと、かつての三国街道中山宿が現れます。中山宿は新田宿と本宿に分かれているのですが、最初に現れるのは新田宿です。歴史を偲ばせる古い家並みが数百メートル続きますが、中でも見応えがあるのは、国登録重要文化財の「平形家住宅門屋」。新田本陣の長屋門として江戸時代末期に建てられ、明治6年から昭和41年までは中山郵便局として使われていました。木造二階建ての古格のある佇まいは、周辺の静かな環境と相俟って、見るものを江戸時代へとタイムスリップさせてくれます。ほかにも、街道やその裏手の細い道を気ままに歩いていると、見事な木造建築や土蔵、藁葺屋根、火の見櫓などが点々と現れて、決して派手さはないのですが、郷愁に浸りながら心地好い散策を楽しむことができます。

中山宿新田本陣長屋門

中山宿新田本陣長屋門

 1キロほど離れたところにある本宿には、法信寺、双松寺などに寄り道しながら向かい、本宿の信号脇にある扇屋食堂でお昼を食べました。本宿もまた、古い家並みを静かに味わいながら散策することができます。ここにも本陣がありましたが、案内板によると、大正12年に落雷により消失したそうで、その後建て替えられた建物も大きな農家建築でなかなか見応えがあります。水をたたえた田んぼや道端の道祖神などを見ながらのんびりと歩き、脇道を右へと逸れ、こんもりとした林へと足を踏み入れると、中山神社があります。大きな木々に覆われた境内は昼なお暗く、森厳たる気が漂っています。

 脇道を戻り、今度は中山敷石住居跡を目指して反対側の脇道へ歩を進めます。中山敷石住居跡は、昭和47年、農作業中に見つかった縄文時代(4千年前ほど前)の敷石住居で、県指定史跡となっています。民家の敷地内にあるのですが、所有者の好意により保存、公開されていて、ガラス張りの見学施設の中を覗き込むと、平らな石が敷き詰められているのを確認できます。隙間を小石で埋めたり、中央に炉を作るなど、快適な住居にしようとした先人の知恵と工夫のあとが見て取れます。狩猟民族にとって、きっとこの近辺は自然の恵み豊かな地だったのでしょう。周辺の集落の中をうねうねと続く細い道をあてずっぽうに歩いていると、案の定、立派な藁葺屋根の家や道祖神などを見つけました。ルーラル・ツーリズムの醍醐味は、お決まりのルートから少しずれた、こんな気ままな散策にあるように思います。

 農地の中の静かな道を歩きながら再び新田宿へ進み、平形家住宅門屋をもう一度眺めてから、国道145号を高山村役場まで戻りました。美しい農山村風景の中、歴史の息吹を感じ取ることができました。

文/企画課 新井基之

●今回ご紹介したコース