群馬県信用保証協会

川場村歴史と石仏の道

折々の散歩道

火の見櫓の似合う山里を歩く

川場村

「高山小学校前」バス停留所

武尊神社

 フルーツ王国である群馬県は、四季折々、さまざまな果物の収穫体験を楽しむことができます。幼い子供を抱える家庭では、植物や自然と親しめ、食欲も満たし、食育にもつながる果物狩りは、休日における大切なイベントになっています。我が家の場合、春先の渋川市(旧赤城村)でのイチゴ狩りに始まって、初夏の渋川市(旧子持村)でのサクランボ狩り、夏の川場村でのブルーベリー狩り、秋の沼田市(旧白沢村)でのリンゴ狩り、初冬の藤岡市(旧鬼石町)でのミカン狩り……といった具合に、ほぼ一年中、果物を求めて飛び回っています。今回散策する川場村には、毎年ブルーベリー狩りで訪れているのですが、車窓に広がるのどかな山里の風景を好ましく感じていたので、いずれゆっくり歩いてみたいと思っていました。

  7月中旬のある日、川場村へと車を走らせました。時折り小雨の降るあいにくの天気だったのですが、梅雨のシーズンなので仕方がありません。川場村歴史民俗資料館に車を停め、まずは資料館を見学しました。館内の展示内容も興味深いのですが、何よりも鑑賞したいのは、国の登録文化財にも指定されている資料館の建物です。川場尋常高等小学校の校舎として明治43年(1910)に建てられた木造の古い建物は、端正でありながら温もりを宿しており、玄関の横に立つ、薪を背負いつつ読書にいそしむ二宮金次郎の石像が、とてもよく似合っています。建物の前には広い緑色の野原が広がっており、古色を帯びた木造の建物と美しい対比を見せていて、しばらく佇んで眺めていると、着物姿の子供たちが歓声を上げながら玄関から飛び出してくるのではないか……そんな気がしてきました。

 いよいよ散策のスタートです。農地の中の道を進むと、周囲には、こんにゃく畑やリンゴ園が目につきます。リンゴはまだ黄緑色ですが、中にはほんのりと紅みがかっているものもあります。遠く近くの山並みが糠雨と霧で濃淡を見せながら煙っており、月並みな表現ながら水墨画のような風情があります。寄り道しながら、隠れキリシタンの墓や大きな農家建築の家々などを眺め、永井酒造の観光酒蔵の先にある、小高い丘の上の中川場神社をお参りしてから、吉祥寺に向かいました。途中、この日ひとつめの火の見櫓を見つけました。吉祥寺は臨済宗の禅寺で、暦応2年(1339)、建長寺四十二世中巌円月禅師を開山和尚として大友氏時により創建されました。文化12年(1815)建立の山門、延宝3年(1675)再建の本堂、寛政2年(1790)建立の釈迦堂などの建物も見所ですが、広い敷地全体を活用し、丹精込めて作られた美しい庭も素晴らしく、アジサイやカキツバタ、スイレンをはじめとするさまざまな花、滝や池、川などの水の流れ、そして点在する石仏などが効果的に配されています。

中山宿新田本陣長屋門

川場村歴史民俗資料館

 吉祥寺を後にして、県道263号を北上すると、西の山並みに小さな社が見え隠れしているので、脇道に逸れ歩を進めると、遠堂の岩観音が現れます。これは文字通り、高さ25メートルの大きな凝灰岩に、観音33体と弁財天1体が刻まれているもので、鬱蒼と茂る木立の中、神秘的な雰囲気を漂わせています。再び263号に戻ってから、今度は東の脇道に入り込み、農地の中を進むと、西向き道祖神が現れます。大きな自然石の真ん中を丸く削り取ったところに、男女が肩を寄せているさまが刻まれており、眺めていて思わず笑みがこぼれてきます。すぐ北側には、愛宕山と呼ばれる小さな山があり、麓には諏訪神社が巨大な杉に護られるように建っています。境内の端には、山頂へ続く160段ほどの木の階段がまっすぐに伸びています。小さな社が祀られている山頂では、360度の眺望を楽しむことができ、爽快な気分を味わうことができます。山を下り、県道263号に出るところで、この日ふたつめの火の見櫓を発見しました。雨は上がっているものの、湿度が高く、歩く速度が次第に鈍ってきます。県道263号を北上し、「和太奈部」というお蕎麦屋さんでようやく人心地つきました。

 県内の山間部の集落には、道祖神をはじめ石仏が多く目につきますが、川場村も同様に石仏に恵まれています。中でも、川場温泉へと向う途中の路傍にふたつ並んで立つ石仏は必見の価値があります。ひとつは、男女が睦まじく肩を寄せ合う「足踏み道祖神」、もうひとつは、子育慈母観音。観音は、西洋風の清楚な顔立ちをしていて、隠れキリシタンが信仰したマリア像ともいわれています。水を湛えた田んぼや、その背後に広がる山並を眺めながら歩を進めると、川場温泉へと至ります。小さな温泉街は、大規模なリニューアル工事の最中で雑然としていますが、完成が楽しみです。温泉街の中にある武尊神社の本堂は、享和4年(1804)に完成したもので、「唐破風の向拝部と正面上部の千鳥破風、茅葺入母屋造り」と案内板に説明のある屋根は、重厚で威圧感のあるデザインをしており、装飾性豊かな欄間彫刻と相俟って、まるで戦隊ヒーロー物の合体ロボットのような迫力に満ちています。神社の近くで、この日みっつめの火の見櫓を発見しました。火の見櫓のある風景というのは不思議と心和む魅力を持っており、散策の際はいつも注意深く探しているのですが、みっつというのは、これまでの最高記録です。県道64号を南へ進むと、石仏が寄り集まる一角が現れますが、ここはかつて湯原寺があったところで、廃寺の名残を感じ取ることができます。脇道へ入り、遠くに見える桂昌寺の赤い屋根を目指して農地の中の道を進みます。桂昌寺は、昭和13年に行年25歳で世を去った薄幸の歌人江口きちの墓があることで知られています。桂昌寺から南へ下り、川場村歴史民俗資料館へと戻ってきました。

文/企画課 新井基之

●今回ご紹介したコース