群馬県信用保証協会

草津温泉周辺の道

折々の散歩道

多彩な表情をみせる温泉街

草津町

光泉寺の釈迦堂

光泉寺の釈迦堂

 たくさんの温泉地を抱えている群馬県には、全国的に有名な温泉も多いのですが、草津温泉もそのひとつ。湧出量(自噴)では日本一を誇り、「湯の花」からも分かるように泉質にも定評があります。開湯は日本武尊とも奈良時代の僧行基ともいわれ、室町時代に記された文書には日本三名泉のひとつとして名を掲げられており、草津の名は古くから広く知れ渡っていました。

  さて、今回は、草津の温泉街とその周辺を散策することにしましょう。草津町役場の北側にある駐車場に車を停め、まずは湯畑へ向かいます。草津温泉の「顔」とでもいうべき湯畑は、温泉街の中心にあり、多くの観光客で賑わっています。縦80メートル、横32メートルの柵に囲まれており、南にある源泉から湧出した湯は、七本の湯樋を通り抜け、北にある湯滝に流れ落ちています。鼻腔を擽る硫黄の匂いと、湯樋に溜まっている湯の花が、草津ならではの温泉情緒を醸し出しています。湯樋に溜まった湯の花は、年四回「収穫」されるそうですが、どのように収穫するのか興味のあるところです。湯畑の南にある高台には、僧行基によって開山されたと伝えられる光泉寺があります。本堂は比較的最近建て替えられていますが、元禄16年(1703)建立の釈迦堂は、朱色に塗られた壁や柱と藁葺屋根とのバランスがよく、小さいながらも風格のある美しい佇まいをしています。

 湯畑まで戻ってから、湯滝通りに歩を進め、次に日本武尊を祀る白根神社に向かいます。神社に隣接する囲山公園には、草津由来の文人の碑が点々と建っているほか、広大なシャクナゲの群落があり、5月の開花期には見応えがありそうです。昼食時になったので、知り合いに教えてもらった、湯畑前の「暖」という店で、肉厚でボリューム満点のしょうが焼き定食を食べてから、土産物屋や飲食店が立ち並ぶ西の河原通りを抜け、西の河原公園へと向かいました。西の河原公園は、湯畑とともに草津温泉のシンボルというべきスポットで、地面のあちこちで湯が湧き出し、池を作り、溢れた湯は川へと流れ込んでいきます。代表的な湧出口である鬼の茶釜から流れ出る湯におそるおそる触れてみると、思ったとおりとても熱く、鬼の茶釜という機知に富んだネーミングの妙を感じました。

音楽の森国際コンサートホール

音楽の森国際コンサートホール

 西の河原公園を通り抜け、国道292号(志賀草津高原ルート)を北へ向かうと、右手にベルツ温泉センター、左手に草津国際スキー場が現れます。夏場のスキー場は青々とした芝生が美しく、子供たちが元気に駆け回っています。スキー場の先の右へ分岐する道を曲がり、音楽の森国際コンサートホールを目指します。この辺りまで来ると、散策をする観光客の姿もまれで、車の往来もぐっと少なくなります。草津サイクリングロードの入口を通りかかると、「熊などに出会わないために鈴や笛、ラジオなどの音を鳴らして歩行されるようお願いします」と書かれた看板が目に留まり、少し緊張しました。深い谷底を見せる谷沢川に架かる橋を渡ったところで、前方20メートルほどの森の中から、突然、大きな生き物が車道に飛び出してきました。一瞬、先ほどの看板が脳裏をよぎり、熊かと思ったのですが、すぐにそれがカモシカであることが分かり、ほっとしました。しかしそれもつかの間、車道の真ん中に立ち止まりこちらを見ているカモシカは、体長2メートルほどと大きく、動きも俊敏とあって、怖さが募ってきます。しばらくの間見つめあっていたのですが、思わず後ずさりをした途端、カモシカがこちらに向かって駆け出してきて、10メートルほど近づいたところで、飛び出してきたのと反対側の森の中へ消えていきました。

 奇妙な体験にざわつく心を沈めながら先へ進み、コンサートホールに到着しました。このホールは、毎年、草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティバルの会場となるのですが、開催前とあってひっそりとしています。周囲の自然と調和した、大きな屋根が印象的な建物は、著名な建築家吉村順三(1908−1997)の設計したもので、かつてここでコンサートを聴いたことがあるのですが、木の温もりが感じられる品格ある空間は、音楽を楽しむには最適といえます。ちなみに、群馬県内にあるもうひとつの吉村作品、みなかみ町の天一美術館と比較しながら鑑賞すると楽しいでしょう。

 コンサートホールを後にして来た道を戻り、草津国際スキー場まで戻ってから、ベルツ通りへと歩を進めました。向かう先は品木ダム水質管理所なのですが、西の河原公園駐車場の辺りから、ベルツ通りを逸れ細い道を行くことにします。午前中に見た囲山公園の裏手を通るこの道は、温泉街らしくなく、生活の匂いが感じられます。更に細い道へと入り込むと、民家が密集し、観光客の姿はまったく見られなくなります。このような、まちの「素顔」を見ることで、草津温泉はぐっと近しいものになりました。品木ダム水質管理所は、草津温泉や白根山周辺の酸性の強い川を中和するために作られた品木ダム(六合村)を管理しているほか、草津中和工場を併設しています。工場は、大きな三つのサイロが天井から飛び出した個性的な外観をしていて、思わず目を見張ります。昨今、「工場萌え」(工場鑑賞)が静かなブームになっていますが、この工場は鑑賞に値する逸品ではないでしょうか。敷地内には、環境体験アミューズメントと題して、楽しみながら中和事業のことを理解できる施設が整備されており、ひととおり眺めたのですが、生き物の棲めない死の川を蘇らせる意義や仕組みを知ることは興味深いものでした。このあと、地蔵堂や地蔵湯畑、目洗地蔵を眺め、温泉街の路地をしばらく歩き回ってから、帰路に着きました。温泉だけではない多彩な魅力に気づくことのできた一日でした。

文/企画課 新井基之

●今回ご紹介したコース