群馬県信用保証協会

須賀尾宿周辺の道

折々の散歩道

双体道祖神にいざなわれつつ農村を歩く

東吾妻町

 群馬県を通る古くからの街道としては、五街道のひとつである中仙道が有名ですが、ほかにも、三国街道や銅(あかがね)街道、十国街道、例幣使街道など、多くの街道が整備されていました。信州街道もそのひとつで、中仙道の脇街道として利用されたほか、草津温泉への湯治客や善光寺への参拝客なども往来しました。国定忠治の関所破りで知られる大戸関所があったことからも、この街道がかつては重要な位置を占めていたことが分かります。

  さて、今回は、信州街道と草津街道の分岐点に当たる須賀尾宿と、その周辺を散策することとしましょう。10月上旬のよく晴れた日に出かけました。吾妻川に沿うように伸びる国道145号を車で西へと進み、郷原駅前の信号を左折し吾妻川を渡り、大戸へ向かいます。鳴瀬の信号で高崎市倉渕方面から伸びる国道406号にぶつかるので、右折して西へ進むと、散策のスタート地点と考えていた吉岡神社の石灯籠と太鼓橋が見えてきます。適当な駐車場がないので周囲を見回しながら進み、数百メートル先に公会堂を見つけ、そこに駐車をしました。何の気なしに立ち寄ったこの本宿公会堂、決して名建築ではないのですが、昔ながらの典型的な集会場の雰囲気をよく残しており、郷愁を誘います。

 スタート地点と決めていた吉岡神社まで戻るかたちで、散策を開始します。吉岡神社の石灯籠は、信州高遠の石工によって天保4年(1833)に造られたもので、優美な姿をしており、石造りの太鼓橋とマッチしています。社殿は数百メートルほど奥にあり、鬱蒼とした林の中の苔むした石段を登っていくのですが、左右に立ち並ぶ杉の巨木は見応えがあります。神社の近くに1軒、木造の大きな建物を見つけました。かつては旅籠や商家として隆盛を誇ったと思われますが、今はその役割を終え静かに時を刻んでおり、「富士ヨット学生服」とか「米」と書かれた看板が、ノスタルジックな味わいを演出しています。道の向かいには、愛らしい石の弁財天が、木々に隠れるように佇んでいます。

 ここからは、国道406号を西へとひたすら進みます。間もなく路傍に、大きな庚申搭が現れます。すぐ横には、仲睦まじい双体道祖神(田代道祖神)も立っており、コスモスやキバナコスモスが周囲を彩っている様子から、これらの石造物が今もなお地元の住民に愛されていることが伝わってきます。本宿公会堂の近くには、まるで昔ばなしの絵本にでも出てくるような構図で、大きな松の根元に、たくさんの石造物が並んでいます。しばらく国道406号を直進し、右に折れて温川に掛かる上本丸橋を渡ります。橋の上から下流を眺めると、小さな沢が、緩やかな滝になって温川に流れ込んでいました。特に名のない滝ですが、周囲の崖や木々の造形とともに、しっとりとした渓谷美を披露しています。橋の近くには、石造物が集まった一角があり(上本丸橋東側石塔群)、農家の建ち並ぶ静かな道を進むと、小さいながら姿の美しい神社、瑠璃閣が現れます。

 国道406号まで戻り、再び西へ進むと、間もなく小さな社(秋葉神社)が現れます。周囲には幾つかの石造物があり、そのうちひとつは双体道祖神(丑ヶ淵道祖神)です。更に直進し、ガソリンスタンドを通り越した先の細い道を右に折れると、木立の中に関谷大日堂がひっそりと佇んでおり、手前にはふたつの双体道祖神があります。再び国道406号に戻り、少し進むと、道の左側の高台に小さな社があります。ここにも石仏をはじめたくさんの石造物が立ち並んでいるのですが、欠け落ちた頭の代わりにきれいな丸い石を載せられた石仏が幾つかあるのに気づきました。廃仏毀釈など過去の歴史を想起させ、痛ましさを禁じえません。

 路傍にさりげなく佇む双体道祖神(関谷橋道祖神)を眺めながら、事前の下調べで目星をつけていた蕎麦屋に向かったのですが、残念ながらこの日は臨時休業でした。散策コース沿いにはほかに飲食店はないので途方に暮れていたのですが、食べ物の自動販売機を見つけました。ラーメンやうどん、おでん、チョコレートなどが缶詰になって売られています。やむなくラーメン缶で小腹を満たし、先へ向かいます。温川橋を渡ったところを十二沢川に沿うように右に折れ、農家の集落の中の細い道を行くと、ここにも双体道祖神(竹道祖神)があります。地元の方に尋ねないと辿り着けないような場所にあるのですが、ロケーション等も含め、この日一番気に入った道祖神です。国道406号に戻り、更に西へ進むと、堀切道祖神、菅尾橋を経て、須賀尾宿が現れます。須賀尾宿は、元和4年(1618)に宿割され、江戸時代には多くの人々や物資が往来し賑わいました。一直線に続く幅広い道の両側に建物が並んでいるさまは、宿場町特有の光景ですが、往時を思わせる建物がほとんど残っていないのは残念です。宿の端にある定善寺、上宿道祖神を経て、杉の巨木に護られ、荘厳な気が漂う須賀尾諏訪神社に至ります。近くには百庚申塚もあるのですが、それにしても、本日散策をした須賀尾宿周辺には、双体道祖神をはじめとした石造物が多いことに驚かされます。

諏訪神社

諏訪神社

 諏訪神社の前には、温川の河岸段丘に作られた農地が広がっています。ゆったりと横たわる山並みを背に、収穫時期を迎えた稲が秋の日差しを受けて金色に輝き、手前の畦道ではコスモスが風に揺れています。ルーラル・ツーリズムの楽しさは、観光名所とは無縁のこんな農山村風景を、しみじみと堪能することにあるように思います。諏訪神社前のバス停から路線バスに乗り、車窓風景を楽しみながら、来た道を本宿公会堂まで戻りました。

農村風景

農村風景

文/企画課 新井基之

●今回ご紹介したコース