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糸井・寺貝戸・貝野瀬を結ぶ道

折々の散歩道

農山村の原風景を辿る

昭和村

 関越自動車道を東京方面から新潟方面へ向かっていると、大きな橋梁が次々と現れます。中でも迫力があるのが、沼田インターチェンジのすぐ手前にある、片品川に架かる大きな橋。緩やかにカーブを描いていることもあり、走行しながら、橋の床版を支えるトラス構造の赤い鉄鋼を見ることができるのですが、片品川の侵食によって作られた広大なU字谷に架かる、高さ70メートル、長さ1,034メートルもの橋を渡るのは、遊園地のアトラクション的なスリルとダイナミズムを味わえる、なかなか刺激的な体験です。この橋は片品川橋といい、関越自動車道の沼尾川橋、永井川橋とともに、1985年の土木学会田中賞を受賞しています。橋梁・鋼構造工学の粋を集めたこの橋を、いつか下から見上げてみたいと思っていたのですが、今回はこの橋を中心に、古い農家建築の多く残る昭和村を散策することにしましょう。

 12月上旬の晴天の日に、足を運びました。昭和村役場近くの、総合福祉センターや公民館が集まる一角に駐車をして、歩き始めます。前月号でも書いたのですが、山間部の農村を歩く場合、歩きたいように歩けば、それがそのまま農村ハイクになりますので、糸井地区から出発し、片品川橋を潜り、その先の貝野瀬地区まで行って、折り返してくる、という、大雑把なプランを立てました。なお、昭和村の養蚕農家については、トヨタ財団の助成による「特定非営利活動法人街・建築・文化再生集団(RAC)」の2007年の調査結果が公表されていて、ルート選定の参考になりました。

 スタートしてすぐに現れるのは、昭和村役場。これまで何度も見ていたはずなのですが、今回、改めて外観を眺めてみると、なかなか味のある佇まいをしています。まるで昔の人が夢に描いた宇宙ステーションやヒーロー映画の基地のようで、細部のデザインも意外と洒落ています。昨今流行りの、レトロフューチャーなミッドセンチュリーモダンのテイストが感じられる、などと書くと、ちょっと大げさでしょうか……。

 片品川橋や貝野瀬地区は北東方向にあるのですが、まずは糸井地区を丹念に歩くことにして、役場の南側の細い道に入り込みました。幸先の良いことに、間もなく火の見櫓を見つけ、その先には、期待どおり古い農家が点在していました。急な坂道をひと登りした先にある上糸井集落に向かうと、ここにも火の見櫓が。古い養蚕農家ばかりでなく、この村には、火の見櫓もたくさん残っているようです。果たして今日は幾つの火の見櫓と出会うことができるのか、楽しみになってきました。上糸井集落では、古い農家が連なる道や、ひときわ大きな養蚕農家を見つけたのですが、集客のため道に面して建ち並ぶ商家建築と違い、広い中庭を取り囲むように母屋や蔵が建ち並んでいるため、写真にうまく収めるのが難しいことを痛感しました。次第に近づいてくる片品川橋を眺めながら、高台にある上糸井集落から県道101号(沼田赤城線)へと下りました。役場方面へ少し戻り、金子屋半九郎という食堂で昼食をとってから、県道101号を貝野瀬方面へと進みました。昭和東小学校のすぐ横には、杉の木立に囲まれた小高神社があり、敷地内には宮ノ前縄文遺跡の案内板が立っていますが、埋め戻されているため、遺跡を偲ぶよすがはありません。ここまで来ると、片品川橋はすぐそこ。橋の真下に立ち、巨大なコンクリートの橋脚と真紅のトラス構造の鉄鋼を見上げ、その大きさを体感しました。
片品川橋を潜ってすぐに現れるのは、寺貝戸集落です。県道101号から一望できるほど小さな集落なのですが、古い農家建築がよく残っており、火の見櫓も健在です。集落の中の細い道を歩いていると、まるで昔にタイムスリップしたかのような気分になるのですが、ひとたび頭上を見ると、モダンでダイナミックな片品川橋が横たわっていて、その風景の振幅の大きさに、幻惑感にとらわれます。一種の奇観ではあるのですが、ミスマッチの妙とでもいうべき不思議な魅力があります。

寺貝戸の集落と関越道片品川橋

寺貝戸の集落と関越道片品川橋

貝野瀬の火の見櫓

貝野瀬の火の見櫓

 再び県道101号を進むと、道沿いには、「田岸の宝篋印塔」や火の見櫓、村指定有形文化財の舞殿がある武尊神社、水神を祀った小さな貯水池などが次々に現れ、散策の足も遅れがちとなります。貝野瀬地区まで着くと、県道101号から離れ、細い道へ入っていきます。さっそくこの日五つめとなる火の見櫓を発見。錦秋の山並みを背景に青空に向かって直立しているさまは、雄姿と呼ぶにふさわしい佇まいをしています。農地の中に農家が点在している静かな道を、ルートを決めずあてずっぽうに進みます。どの農家も味わいのある姿をしており、中には、かつての養蚕農家の隆盛を偲ばせる、大きな建物もあります。ちなみに、養蚕農家には、蚕の風通しを良くするために、屋根に櫓(やぐら:天窓のこと)が付けられているので、容易に見分けることができるのですが、櫓のかたちにはさまざまなものがあり、比較しながら見て歩く楽しみがあります。養蚕業の隆盛を今に伝える農家建築が今もこれだけ残っているというのは、養蚕県群馬の県民にとって誇りに思えます。古い木造建築を維持して住み続けていくのは大変なことでしょうが、群馬の原風景とでもいうべきこれらの建築を、これからも大切に残していってほしいと祈らずにいられません。

 県道101号に出て、片品川に架かる萬延橋に向かいます。ここは渓谷美と関越自動車道片品川橋を一望することのできるビュースポットです。ここから県道101号を辿り、駐車場まで戻りました。途中、この日六つめとなる火の見櫓を見つけました。懐かしい農山村風景が今も残る、美しい村でした。

文/企画課 新井基之

●今回ご紹介したコース