群馬県信用保証協会

赤岩の渡しと周辺の道

折々の散歩道

やさしくあたたかい時間の流れる道

千代田町

 1年で最も心躍る時季といえば、日に日に暖かくなり、草木が萌え出て、新しい命の芽吹きがそこここで感じられる、3月から4月にかけてではないか、というのが衆目の一致するところでしょうが、花粉症患者にとっては、一概に首肯できかねる、なかなかつらい時季であります。今年の花粉飛散量は例年より少し多い程度とされていましたが、周囲の様子をみていると、いつもより症状の重い人が多いようです。この原因は暖かい日が多かったことによる、という新聞記事を読みましたが、だとすると、地球温暖化は、花粉症に対しても大きく作用することになるでしょう。ところで、環境省は例年花粉飛散量の予測を発表していますが、今年の1月の発表資料を見てびっくりしました。全国46都道府県、計48ヶ所の予測地点のうち、前橋市の過去10年間の平均飛散量は、茨城県水戸市に次いで第2位となっています。わが群馬県は、こと花粉症の人にとっては、とても過酷な場所のようです。かくいう私も花粉症なので、散策に際してはマスクなどの対策はかかせません。

 さて、今回は、うららかな春の陽気に誘われて、邑楽郡千代田町へ散策に向かいましょう。3月下旬の晴天の日に出かけました。千代田町役場の駐車場に車を停め、歩き始めます。県道152号(赤岩足利線)を横切り、西小学校の南側を西へと向かうと、新興住宅街が現れます。分譲中の区画も多いのですが、新しい住宅街というのは、明るく若々しい希望が漂っていて、歩いていて気分がいいものです。住宅街を抜けると、広大な田んぼが現れます。稲刈り跡がリズミカルにひょこひょこと飛び出している様子が愛らしく、ヒバリが頭上でさえずり、春の訪れを喜んでいます。県道38号(足利千代田線)を超えたところにあるなかさと公園は、6.2ヘクタールの広大な敷地に、野球場やゲートボール場、緑豊かなさまざまな広場、子供用の遊具などが点在しています。隣接地では、西邑楽水質浄化センターの工事が進んでいます。利根川の川堤が目の前にあり、白い大きな休泊川排水機場の建造物が威容を誇っています。排水機場とは聞き慣れない名称だと思いますが、低地を流れる支川からポンプにより強制的に本川へ排水する施設のことで、大雨時の洪水被害を防止する重要な役目を担っています。類を見ない個性的な形状に興味をひかれ、建造物を一周して外観を鑑賞しました。

 なかさと公園から南東に向かい、14世紀に作られた阿弥陀三尊板碑の立つ大林寺、広い社域が心地いい舞木長柄神社を眺め、住宅街の中の道を少し迷いながら、舞木城址に至りました。舞木城は、藤原秀郷が承平年間(931‐937)に築城し、享禄年間(1528‐1531)まで子孫が居住していたと伝えられていますが、現在、跡地は住宅団地となり、偲ぶよすがは小さな公園の中に立つ「藤原秀郷生誕之地」と刻まれた石碑と案内板だけとなっています。公園から南東へ進むと、田山花袋が逗留し、後に小説「河ぞひの春」の舞台とした割烹旅館新田屋が左に現れ、さらに進むと、右に嘉永3年(1850)創業の老舗、山川酒造の煙突が見えてきます。古い建物が残されていて、予約をすれば蔵を見学することもできるようです。県道152号に出て北に向かうと、すぐに安楽寺が現れます。寺域内には、丘陵状に盛り上がる米山薬師古墳があり、頂上には薬師堂が建てられています。ちょっと分かりづらいのですが、寺の北側にも堂山古墳があります。東に向かい、県道83号(熊谷館林線)を超えると、光恩寺が現れます。ここは鎌倉時代に佐貫嗣綱によって築かれた赤岩城のあったところで、城の遺構は堀跡が残る程度です。跡地に建つ光恩寺は古刹で、長屋門、庫裏、客殿、石蔵は国の登録文化財となっています。このうち長屋門は、日本で最初の女医である荻野吟子の生家から、明治時代に移築してきたものです。

赤岩渡し船

赤岩の渡し船

 利根川堤に出て、赤岩の渡し(赤岩渡船)を目指します。赤岩の渡しは、県道83号の一部となっているのですが、公道でありながら橋がなく、船で渡ります。江戸時代には利根川水運は交易の重要な手段だったのですが、中でも戦国時代から利用されていた赤岩の渡しは、非常に賑わっていました。時代の流れとともにそのあり方は変化し、車社会の現在では、訪れる人もまばらです。船夫(船長?)に声をかけ、対岸まで渡ります。公道ということで無料なのですが、乗客は私一人だけで、贅沢な気持ちになる一方、申し訳なく感じます。普段見慣れた前橋近辺と違い、ここでの利根川は、水量が多く川幅も広く、まったく別の表情を持っていて、5分程度の短い船旅なのですが、なかなか心躍る体験でした。

利根川堤の菜の花の道

利根川堤の菜の花の道

 対岸は埼玉県熊谷市で、川堤の道を下流に向け進みます。堤の下には立派な防風林を備えた古い大きな民家が並んでいます。堤には見晴らす限り菜の花が咲きほこり、甘いような青いような独特の匂いに包まれます。堤の下にある熊谷市立荻野吟子記念館に立ち寄って、内部を鑑賞しつつ散策の疲れを癒しました。下流にある利根大堰まで歩を進めるかどうか迷ったのですが、結構距離がありそうだったので断念し、赤岩の渡しまで戻りました。対岸で待つ船夫には、黄色い旗をポールに掲げ合図を送ると、迎えに来てくれる仕組みで、このほのぼのとしたアナクロニズムは今の時代貴重です。迎えの船が到着するのを5分ほど待って、乗客が私だけの短い船旅を再び楽しみ、船夫にお礼を言い、降船しました。役場の駐車場へ戻る途中、和風レストラン美味小屋(うまごや)に立ち寄って、遅いお昼を食べました。ゆったりと流れる利根川や、のんびりとした風情の赤岩の渡しに代表されるように、千代田町に流れている時間は、どこかやさしくあたたかいものに感じました。

文/企画課 新井基之

●今回ご紹介したコース