群馬県信用保証協会

板鼻宿周辺の道

折々の散歩道

清く澄んだ水の流れる宿場町

安中市

 秋になると、郊外の広い空き地や河原などで、セイタカアワダチソウの群落を目にすることがあります。セイタカアワダチソウは、北アメリカ原産の帰化植物で、明治時代に園芸用として持ち込まれましたが、全国的に繁殖したのは昭和40年代のこと。一時は全国の空き地や河原を席巻しましたが、アレロパシーという独特の性質から、最近は次第に衰退してきています。アレロパシーとは、他の植物の生育を抑制する物質を放出する現象のことですが、セイタカアワダチソウが有する物質は、自らにも作用してしまうことから、いわば自家中毒のような状態に陥ってしまうそうです。なんとも皮肉なことですが、似たような事例は人間界にも溢れているようでもあり、思わず身につまされてしまいます。記憶を遡ってみると、今から30年ほど前には、確かにセイタカアワダチソウの群落が至るところに広がっていたように思いますが、かつては造成地や空き地が比較的身近に存在していたことも、隆盛の一因だったのではないでしょうか。不思議なことに、コンビナートや巨大な工場群を背にした広大な湾岸の造成地を、セイタカアワダチソウが覆いつくしている風景が、深く脳裏に焼きついていて、果たしていつ、どこで見た風景なのか記憶を探ってみたのですが、これといって思い当たりません。中学生か高校生の頃図書館で借りて読んだ本の中で、「セイタカアワダチソウがいっぱい/セイタカアワダチソウがいっぱい」と延々と繰り返される詩を読んだ記憶があり、その記憶が架空の映像を作り上げたのかもしれません。作者は伊藤比呂美さんだったか井坂洋子さんだったような気がするのですが、記憶ははなはだ漠としています。ともあれ、かつてはやっかいものの雑草というイメージで捉えていたセイタカアワダチソウですが、馬齢を重ねるにつれ、いとおしさを感じるようになってきて、秋になると群落を発見するのが楽しみになっています。

旧本陣書院

旧本陣書院

 さて、今回は、安中市の板鼻宿を訪れ、深まる秋の中で、中山道の宿場町の面影を探ることとしましょう。国道18号を高崎方面から西へ向かい、板鼻下町の信号で右に逸れ、しばらく進むと左側に板鼻公民館が現れるので、駐車をします。敷地内には、板鼻宿本陣木島家の書院が移築保存されていて、資料館として公開されています。この書院は、文久元年(1861)11月、皇女和宮が14代将軍家茂へ輿入れするため京都から江戸へ下向する際、宿泊した部屋で、往時の資料が展示されています。旧板鼻宿は公民館の南側に東西に延びています。西に向かって歩き出すと、点在する商店の中に時おり現れる木造の古い建物が、歴史を偲ばせます。宿場を抜けると、碓氷川が現れます。現在は鷹の巣橋により簡単に渡ることができますが、江戸時代には橋はなく徒歩で渡っていたので、板鼻宿の繁栄は碓氷川の川止めによるところも大きかったようです。川を渡り切ったところにある中宿交差点の左には、開放的な諏訪神社があります。交差点を右に曲がると、すぐにT字路に突きあたるので左に進みます。静かでまっすぐな道が続き、旧中山道の面影がかすかに感じ取れ、街道ウォークをしているとおぼしき十人ほどの中高年グループとすれ違いました。中宿公民館のところで右折し、湯の入橋で再び碓氷川を渡ります。橋の上からは碓氷川と九十九川、湯の入川が合流する様子を見ることができます。河原で羽を休めている白鷺を見つけ、カメラを構えたら上流に飛び去っていきました。野球場や広場のある西毛総合運動公園やクレー射撃場を左手に見ながら、川沿いを下流へと進むと、鷹の巣橋に戻ってきます。北側は段丘となっていて、急斜面を登りつめると、鷹巣神社があるのですが、楼門と小さな祠があるばかりで拝殿や本殿はなく、すっかり荒れ果てています。この近辺はかつて鷹ノ巣砦と呼ばれ、中世にあった板鼻城(鷹ノ巣城)の出丸でした。板鼻城の遺構はほとんど残っていないのですが、板鼻宿と一体化した観光整備が望まれるところです。

板鼻堰の流れ

板鼻堰の流れ

 裏通りに入り、板鼻堰に沿って進みます。板鼻堰は、碓氷川と九十九川の合流地点から取水して、高崎市八幡町、剣崎町等を経て烏川へ流れ込む、全長15キロの水路で、約400年前の慶長年間に開削されました。1メートルほどの川幅に水は滔々と流れ、家々の庭には水が引き込まれ、道から一段下がった洗い場が残されているなど、昔の風情が今も色濃く残っています。渓斎英泉による浮世絵版画「木曽海道六拾九次之内 板鼻」(注:木曽海道は木曽街道(中山道)の意)に板鼻堰らしき雪景色が描かれていますが、比較しながら歩くのも一興です。水が引きこまれた庭を覗くと、大きな池にたくさんの鯉が泳いでいるのが見え、養鯉業が盛んなことが分かります。板鼻公民館に着くと、今度は旧板鼻宿を東方向へと進みます。一直線に延びる道のそこかしこに、宿場町の名残を見つけながら歩き、板鼻館という食堂で名物のタルタルカツ丼を食べました。画期的な味に驚きつつ満足してから、菓子処杉本屋で買い物をし、再び東へ進みます。次第に商店や人家がまばらとなりますが、時おり現れる庚申塔や双体道祖神などが中山道の歴史を偲ばせます。国道18号に合流する手前を左に折れ、細い道を進むと、ところどころに広がる空き地に、セイタカアワダチソウが群落を作っているのを見つけます。華やかなのにどこか侘しさも漂う光景に、いかにも「郊外の秋」といった風情を感じます。信越線の線路を渡り少し進むと、板鼻堰に合流します。堰の向こう岸には人家が建ち並び、数メートルおきに小さな橋がかかっています。前橋市の敷島公園と前橋公園を結ぶ風呂川にどことなく似ていて、住宅街に溶け込んだ堰が美しい調和を醸し出しています。板鼻公民館に戻ったものの、板鼻堰が名残惜しく、再び堰に沿って散策をして、しっとりとした情趣を堪能しました。

文/企画課 新井基之

●今回ご紹介したコース