群馬県信用保証協会

水上温泉街周辺の道

折々の散歩道

清流を身近に感じる温泉街で憩う

みなかみ町

 平成22年7月17日から8月29日まで、群馬県立近代美術館において「もうひとつの場所−野又穣のランドスケープ」という展覧会が開催されました。野又穣さんは、1955年東京生まれの画家で、1986年の最初の個展以来、一貫して空想上の建築をテーマとして作品を描き続けてきました。空想上の建築というと、旧約聖書に登場する伝説の塔「バベルの塔」がなんといっても有名で、想像力を刺激されるのか、多くの画家がこの架空の塔を絵画化していますが、中でもピーテル・ブリューゲルの作品がよく知られています。野又穣さんの作品とブリューゲルの「バベルの塔」には、正確かつ緻密な描写や、建築のイメージを覆す奇妙な造形、パースペクティブを強調した広大な背景などの共通点が見られますが、大きな違いは、ブリューゲルの「バベルの塔」には人間たちが描かれているのに対し、野又穣さんの作品には人間がまったく登場しないことです。ブリューゲルの作品には猥雑ともいえるほどの生命力が溢れていますが、野又穣さんの作品は、しんと静まりかえっていて、そのため、空想建築だけに純粋に視線と意識を集中させることができます。用途不明の不思議な造形の建築を眺めていると、さまざまにイメージが膨らみ「自分がこの建物に住むとしたら……」などということを思わず考えます。

 最近は、現実の世界でも、CADによって可能となった複雑な構造設計や、エンジニアリングの進化により、まるで空想建築かと見紛うような巨大建築が実現できるようになりました。日本では、ハイテク建築の巨匠レンゾ・ピアノによる関西国際空港が有名ですが、現在建築中の東京スカイツリーも、野又穣さんの作品に登場してもおかしくないような詩情漂う佇まいをしていて、東京タワー同様、早くも多くのファンを獲得しているようです。このように、モニュメンタルな巨大建築は、それが現実のものであれ空想のものであれ、人々の「夢の器」として機能しているのです。建築は莫大な資金がかかるため、単純な費用対効果によって評価をしがちですが、長い目で見れば、地域の「顔」として、文化遺産として、精神的支柱として、その地に住まう人や訪れる人に作用し続けるということを、忘れずにいたいものです。

諏訪峡

諏訪峡

 さて、今回は、猛暑を避けて涼を求め、みなかみ温泉街を訪れ、利根川の清流を眺めながら散策することにしましょう。国道291号沿いにある「道の駅水紀行館」に駐車をします。ここには、水族館や売店、軽食コーナーなどがあり、ゆっくりしたいところですが、散策を優先することにして、歩き始めます。すぐ東側には利根川が流れていますが、美しい渓谷美を見せていることから、諏訪峡と名づけられています。諏訪峡沿いにある清流公園を眺め、川沿いに続く遊歩道を南に進みます。やがて与謝野晶子歌碑公園が現れ、与謝野晶子が水上に訪れた際に詠んだ歌を、渓谷美とともに鑑賞することができます。公園の横には歩行者専用の笹笛橋が掛かっており、渡っている途中、上流のほうから3艘のラフティングボートがやってくるのが見えたので、しばらく待ちました。1艘に8人ほど乗り込んで、波をかぶるごとに嬌声をあげ、なんとも気持ちよさそうです。近くまで来たので橋の上からカメラを構えると、手をあげてこたえてくれました。

 対岸に着くと、清流を眺めながら川沿いの遊歩道を北に向かいます。利根川と温湯川の合流点に架かる歩行者専用の紅葉橋を渡り、更に温湯川に架かる温湯橋を渡ると、温泉街に差し掛かります。この道は、ふれあい通り商店街と名付けられ、レトロな佇まいのみやげ物屋や商店の中に、モダンなカフェやクラフトショップが混在している様子からは、温泉街の長い歴史を感じ取れます。途中、案内板に従い利根川に架かる水上橋まで往復します。橋の手前には、足湯のある湯原温泉公園があり、橋の上からは、清流沿いに温泉旅館が建つ様子を眺められます。この近辺は水上峡と名付けられ、夜間はライトアップされます。ふれあい通りを更に進み、湯原橋を渡ると、JR上越線の線路が現れます。線路に並行して進む道を歩きながら、以前、SL列車を撮影する鉄ちゃんたちが大勢いたことがあったのを思い出しました。

 水上駅前に近づくにつれ、商店街は再び活気が出てきます。水上駅の駅舎は、有名温泉地の窓口だけあって大きく、入口部分は平成13年に増築されています。嬉しかったのは、駅前広場の北の外れに、火の見櫓を見つけたことで、勝手に「水上タワー」と名づけました。駅前にはさまざまな飲食店が立ち並び、迷った末、中華きむらでラーメンを食べました。食後は、駅前を再び北側に向かいます。懐かしい風情の商店街が続き、SL転車台広場を過ぎると、上越線の線路の手前に、利根川遊歩道入口が現れるので、歩を進めます。利根川に沿ってしばらく快適な道が続きます。向いの河川敷では、ラフティングボートが何艘も並び、ラフティングを楽しんできたと思しき人たちが休憩しています。利根川遊歩道の終点は湯原橋の手前で、ふれあい通り商店街を少し歩いてから、旧戸部家住宅を目指して脇道に逸れます。幼児用の遊具がある忠霊塔公園でしばらく休憩してから、民俗資料館に併設された旧戸部家住宅を見学します。川場村立岩に18世紀前期に建てられたこの住宅は、木造平屋建てで、屋根は寄棟、萱葺となっており、昭和45年に国指定重要文化財に指定され、昭和48年にこの地に移築されました。自然の素材だけで作られた建築は、年を重ねるごとに自然に近づき、まるで地面から生え出したかのように大地に溶け込んでいます。冒頭で、空想建築やハイテク建築について述べましたが、それらにも決して引けを取らない力強い存在感が古民家にはあります。住宅が立ち並び生活集の漂う狭い路地のような道を南へと向かい、再びふれあい通り商店街に出て、道の駅水紀行館まで戻りました。

旧戸部家住宅

旧戸部家住宅

文/企画課 新井基之

●今回ご紹介したコース