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茂林寺周辺の道

折々の散歩道

水と緑に恵まれたお伽噺の生まれたまち

館林市

 念願だったヒアシンスハウス(風信子荘)に、ようやく足を運ぶことができました。軽井沢や信濃追分を愛した詩人として名高い詩人立原道造(1914−1939)が、さいたま市の別所沼畔に自分の別荘として構想していたもので、残念ながら構想の翌年、肺結核により24歳にして夭折したためその夢はかないませんでした。しかし、熱心なファンの運動により、没後65年となる平成16年、実現に至りました。

 立原道造は、一般的には詩人して知られていますが、実は、東京帝国大学建築学科で建築を学び、卒業設計をはじめ辰野賞を3回受賞、卒業後は建築事務所に勤務していた建築家でもあったのです。卒業設計は、軽井沢を愛した詩人らしく、「浅間山麓に位する芸術家コロニイの建築群」というもので、残された図面やスケッチからは、詩的な感性が建築に生かされていることが分かります。別所沼のヒアシンスハウスは、ほんの5坪足らずの小さな建物ですが、残された図面やスケッチに忠実に建てられています。必要最小限の設備しかない、極めて合理的なスペース配分の中に、ところどころ洒落た遊び心がまぶされていて、周到かつ繊細に検討したことの伝わってくる、美しい建物です。もし、立原道造が夭折することなく、長生きしたら、どんな詩を書き、どんな建築を残したろうか…、思わずそう考えてしまいました。

茂林寺山門

茂林寺山門

 さて、今回は、館林市を訪れ、茂林寺周辺を散策することにしましょう。茂林寺前にある駐車場に車を停め、歩き始めます。茂林寺に続く参道は、100メートル足らずと短いながら、昭和テイストが濃厚な土産物屋が建ち並んでいます。店先にぎっしりと飾られた売り物の狸の置物が、つぶらな瞳で参拝客を見つめていて、思わず笑みがこぼれます。応仁2年(1468)築の総門(通称黒門)をくぐると、21体の狸像が左右にずらりと並んでいます。元禄7年(1694)築の山門(通称赤門)は、茅葺の古雅な佇まいをしています。本堂は、総門と同じく応仁2年建立で、大きな茅葺屋根が見事で、荘厳さに満ちています。本堂内には収蔵品を見られる拝観コースがあり、拝観料を払い鑑賞します。内部は、狸の剥製や置物など、狸グッズで溢れかえっており、笑いがこみあげてくるような珍妙なものも多く、この招福の寺は、笑いの効用も大きな要素だな、と思いました。有名な「分福茶釜」も展示されていて、ちょうど狸が化けたようなサイズをしているのですが、随分古いものらしく、格調のある佇まいをしています。一般的には、巌谷小波によるお伽噺「分福茶釜」が有名ですが、寺伝の「分福茶釜」は、守鶴という和尚がどこからか持ってきた茶釜は、いくら湯を汲んでも尽きることがなく、この茶釜の茶を飲むものは八つの功徳が授かるとされていましたが、ある晩熟睡中に、手足に毛が生え、尾のある姿をさらした守鶴は、やむなく狢(むじな)(狸の説もある)となって去っていった……というものです。狢と狸ではだいぶ印象が違いますが、招福という観点からは狸が望ましいような気がします。境内に散在する大きなお腹を丸出しにした開放的な狸像を見ていると、メタボリックに悩む中年男としては、妙に親近感がわいてきて、元気づけられます。

茂林寺沼湿原の木道

茂林寺沼湿原の木道

 お昼になったので、茂林寺の近くにあるもり陣で食事をしてから、茂林寺の北に広がる茂林寺沼湿原に歩を進めます。茂林寺沼湿原は、県の天然記念物に指定されており、一周20分程度の遊歩道(一部は木道)が整備されています。四季折々、さまざまな植物を見ることができますが、私が訪れた10月下旬は、ススキやセイタカアワダチソウが目につきました。一周してから、もう一度、遊歩道を途中まで進み、茂林寺川にぶつかると、左に曲がり、土堤の上を川を眺めつつ歩きます。まもなく美園小が現れるので、川から離れ右折すると、新興住宅街らしい気持のよい街路が続きます。県道366号(江口館林線)を渡り、住宅街の中の道を、更に東へ進み、館林市水質管理センターや第四中の横を通り、永明寺に近づくと、次第に農地が多くなってきます。永明寺は小さな寺ですが、古拙の味わいの石仏が印象に残りました。少し東に進むと、赤い鳥居と昭和9年建立の狛犬がある駒方大明神が現れます。農地の中の道を南東に向かうと、昨年(平成21年)竣工した東洋水産の大きな工場が現れるので、敷地に沿って左折し、県道304号(今泉館林線)にぶつかったところで今度は右折すると、路傍に小さな道祖神が佇んでいます。道祖神の奥手にはまだ新しい大林稲荷神社があります。

 県道304号を進むと、やがて谷田川に架かる十二社橋が現れます。川を境にして、対岸は邑楽郡明和町ですが、橋の手前を右に折れ、土堤の上の道をのんびり歩きます。道は谷田川に沿ってまっすぐに伸び、頭上には秋の青空が広がり、開放的な気分になります。河原には雑草がたくましく繁茂し、ところどころセイタカアワダチソウの群落があります。県道366号を渡るとまもなく、茂林寺川が谷田川に合流するポイントが現れるので、今度は茂林寺川に沿ってしばらく進み、途中で川から離れ、住宅街の中の道を北に向かい、熊野神社を眺めてから、西へ歩を進めます。結婚式場ベルジューネ館林の周囲は、野鳥の森フラワーガーデンとして整備されており、3月下旬から6月にかけて開園します。ベルジューネ館林の先で茂林寺川にぶつかるので、茂林寺沼を眺めながら川沿いの道を左に進みます。茂林寺まで戻ると、東武伊勢崎線の茂林寺前駅を目指します。隣の館林駅はクラシックスタイルの格調ある姿をしていますが、茂林寺前駅は、こぢんまりとした平屋建てで、鄙びた風情があります。昭和2年の開業時に竣工したものか分かりませんが、随分古いもののようです。駅前にある商店や自転車預かり所の佇まいも、昭和テイストを色濃く残しています。住宅街の中の小さな根本山神社を眺め、駐車場に戻りました。

文/企画課 新井基之

●今回ご紹介したコース