群馬県信用保証協会

沢渡温泉周辺の道

折々の散歩道

山懐に抱かれたのどかな温泉街

中之条町

 前橋市に今年10月オープンする予定の美術館アーツ前橋の内覧イベントが3月23・24日に開催されたので足を運んできました。イベントのタイトルは「あるくことからはじまること」で、これはアーツ前橋の建物がかつてWALK館という名のファッションビルだったことによりますが、それとともに、中心市街地に位置することになるアーツ前橋が、街とつながることを活動の方向性として定めていることの表明でもありました。実際、メインのイベントである音楽・ダンス・演劇を組み合わせたパフォーマンスは、館内のさまざまな場所で繰り広げられ、観客は館内を歩き回りながら鑑賞し、最後は、建物の外で演奏される高校のブラスバンドで締めくくられました。そのほかにも、街なかで植物を育てるガーデニングプロジェクトや、街なかに部室を作るマチリアルプロジェクトなど、街とつながる現在進行中のプロジェクトの展示や、公募市民で構成されたマエバシ文化発信局が作成した街なかの魅力を伝えるZINE(雑誌)「うしろあるき」の配布、マエバシ文化発信局有志による自主企画「うしろまえばし散歩〜三河町の馬場川歩き」なども開催され、これからアーツ前橋を起点として街なかがにぎやかになるのではないか、と期待させるに充分なイベントでした。

 さて、今回は、沢渡温泉を訪れ、自然に溶け込んだ静かな温泉街を散策しましょう。晩釣せせらぎ公園の駐車場に車を停め、歩き始めます。晩釣せせらぎ公園は、晩釣橋周辺に広がる上沢渡川の河畔を整備した親水公園で、早春の澄んだ水の流れに手を入れてみると、手を切るほどの冷たさです。川沿いにはかじか遊歩道が設えてあり、下流に向かって歩を進めます。3月下旬に訪れたのですが、枯葉と枯草に覆われた茶色い地面から、萌黄色のフキノトウがちらほら生えていて、山里の春の訪れを感じさせてくれました。県道55号(中之条草津線)沢渡バイパスの沢渡大橋が頭上に現れ、下をくぐる際は真紅の立派な橋桁に圧倒されます。川は次第に渓谷のように深く切れ込むようになり、急峻な斜面につけられた遊歩道を進むと、林の中に双体道祖神や石仏などが佇む一角が現れます。少し先で車道に突き当り、遊歩道は終わります。近くの路傍に大きな「豚魂碑」が立っています。碑の裏側に由来が刻まれていて、昭和43年に当地で養豚業を始めた方が、昭和61年に建立したものであることが分かります。かじか遊歩道の対岸にある車道を上流に向かって進むと、沢渡温泉街の西端に出ます。

 沢渡温泉は、草津温泉の仕上げの湯として江戸時代に栄え、江戸末期には高野長英が訪れ、大正11年には若山牧水が長野・群馬・栃木の各県を24日間かけて旅をして、随筆「みなかみ紀行」を残したことで知られています。かつてこの紀行文を読んだことがあるのですが、一日何十キロも歩く健脚ぶりに驚いた覚えがあります。10月19日に花敷温泉を発った牧水は、沢渡温泉の正栄館でお昼を食べ、その日は四万温泉に泊まりました。正栄館は昭和3年に龍鳴館に名を変え、昭和20年の大火で温泉街は壊滅状態になったため、往時の名残は余りありません。その後再建された温泉街は、いずれの旅館も規模が小さいのですが、古きよき昭和時代の面影をそこここに残し、のどかでのんびりとした雰囲気が漂っています。12時を過ぎたので上州軒でラーメンを食べて、再び歩き始めます。温泉街の真ん中辺りには共同浴場があり、温泉街の東端近くにある沢渡温泉バス停の時刻表掲示版は木造彫刻のカモシカで、なかなか見応えがあります。バス停の脇を右折すると見晴公園があり、その名のとおり温泉街を見降ろすことができます。少し先の小高い丘には二十三夜塔などの石造物が立ち並んでいます。温泉街まで戻り、今度は左折して温泉街の裏手を進みます。大きな養鶏場を過ぎてしばらくすると、山間にぽつんと、鄙びた風情のある永林寺が現れます。やがて反下川に沿うように走る道にぶつかります。反下川を覗きこむと、小さな堰があります。これは中之条ダムの取水堰で、水量は少ないながら、中之条ダムや四万川ダム同様、きれいなエメラルドグリーンをしています。寺澤川に架かる新寺澤橋と、古くからある寺澤橋を眺め、県道55号を右折して再び沢渡温泉街のほうへ進みます。

沢渡温泉街遠景

 温泉街の中ほどに、沢渡神社の案内板が出ているので右折して、階段状の細い路地を登っていくと、広場が現れ、双体道祖神が出迎えてくれます。広場を横切ると沢渡神社の鳥居の手前に万葉歌碑が立っています。刻まれているのは「さわたりの てこにいゆきあひ あか駒が あがきをはやみ こととはずきぬ」という歌で、大意は、沢渡の若い女性に行き会ったが、乗っていた馬の歩みが早いので言葉もかけずに来てしまった、というものです。この歌の「さわたり」が当地を指すかは定かでないそうですが、今で言うところの「チャラい」感じの歌で、思わず笑みがこぼれます。沢渡神社は建久2年(1191)草創と伝えられ、かつては湯前神社と呼ばれていました。鬱蒼とした鎮守の森の中に佇む赤い屋根の社殿は、なかなか風格があります。沢渡神社を中心に温泉街の北側には官舎山遊歩道が作られていて、西に向かって進むと、町指定重要文化財である、樹高16メートル、目通り3.8メートルの大きなカシの木があります。近くにある三社権現には、中之条ビエンナーレの際に飾られた小さな陶地蔵が今もそのまま残されています。細い道を進むと開けたところに金毘羅宮があり、本格的な登山道のような道を登りつめると、四阿が設置された官舎山の山頂に到達します。その先を下るともうひとつ四阿があり、共同浴場の横に下る道すがら、高台から温泉街を一望することができます。晩釣橋を渡り、明治時代の凶作の際の村民の祈りを伝える北向三十三番観世音を眺め、駐車場へ戻りました。

水圧鉄管

沢渡神社

文/企画課 新井基之

●今回ご紹介したコース