群馬県信用保証協会

神ヶ原・平原・尾附地区の道

折々の散歩道

軽やかな現代建築と懐かしい農村風景

神流町

 まち歩きの楽しみのひとつに、建築鑑賞があります。中世の寺社建築から、近世の農家・商家建築、近代の産業遺産や公共建築など、時代ごとにさまざまな様式がありますが、戦後に建てられた現代建築は、スケールが大きく素材のバリエーションも多いので、見応えがあります。本連載でもこれまでさまざまな現代建築を紹介してきました。前橋市の新群馬県庁舎(佐藤総合計画、1999)、高崎市の群馬音楽センター(アントニン・レーモンド、1961)、ウエストパーク1000(隅研吾、2001)、藤岡市の鬼石多目的ホール(妹島和世、2005)、安中市の市文化財資料館(白井晟一、1956)、館林市の群馬県立館林美術館(第一工房、2001)、草津町の音楽の森コンサートホール(吉村順三、1991)など。そして、まだ取り上げていないところでは、高崎市の群馬県立近代美術館(磯崎新、1974)、みなかみ町の天一美術館(吉村順三、1997)、桐生市の県立ぐんま昆虫の森昆虫観察館(安藤忠雄、2004)、渋川市のハラ・ミュージアム・アーク(磯崎新、1988)、みどり市の富弘美術館(ヨコミゾマコト、2005)などがあります。

 さて、今回は、農村の景観とともに現代建築を味わうことのできる、神流町の旧中里村地区を訪れることにしましょう。国道462号(奥多野花街道)を神流町役場から西へと車を走らせると、中里合同庁舎が現れるので、ここに駐車をします。中里合同庁舎は、群馬を代表する現代建築のひとつで、旧中里村役場として平成15年に竣工。プロポーザル方式(提案書方式)により早稲田大学古谷誠章研究室+NASKAが設計を手がけました。古谷誠章氏は、茅野市市民館や香北町立やなせたかし記念館、小布施町立図書館などを設計し、日本藝術院賞、日本建築学会作品賞、日本建築家協会賞等の受賞歴があり、群馬県では高崎市立桜山小学校の設計も行っています。中里合同庁舎は、キューブ状の4階建ての建物で、正面(北側)と背面(南側)が全面ガラス張りになっていて、背面に迫る山並みが建物を透かして見えるため、とても軽やかな印象を見る者に与えます。内部は自由に見学できるので、足を踏み入れます。1階には吹き抜けの大きなホールが広がっており、全体的に仕切りの少ない開放的な空間構成になっています。東側には4階まで一直線に階段が伸びていて、階段の側面は一面本棚が設えてあり、なかなか壮観な眺めです。1階から4階までしばらく歩き回り、細部に至るまで機能美、景観美を追求していることが伝わってくる、見応えのあるデザインを堪能します。道の向かいにある中里中学校体育館も、早稲田大学古谷誠章研究室+NASKAが設計し2004年に竣工したもので、地場産の木材とガラスを多用した瀟洒なデザインは、対面する中里合同庁舎と美しく呼応しています。

神流町合同庁舎

 国道299号(十石峠街道)を西へと歩き始めます。道沿いに広がる集落はすぐに途切れ、山の斜面と神流川に挟まれた道を進みます。ちょうど紅葉の見頃で、晩秋の樹々は薄日を浴びて、赤やオレンジ、黄色などさまざまな色彩のグラデーションを見せています。やがて神流町恐竜センターが現れます。近くにある瀬林の漣痕で恐竜の足跡が見つかったのを契機に昭和62年に開設され、ライブシアターや恐竜の骨格標本、神流町で発見された化石など、展示はなかなか充実しており、子供だけでなく大人も充分に楽しめます。すぐ隣にははこだたみキャンプ場があり、目前にある神流川で夏場は川遊びを楽しむことができます。恐竜センターの食堂でお昼を食べ、散策を再開します。国道299号は神流川沿いに走っていますが、川が大きく北へ半円状に蛇行したところで、国道は琴平橋で川から離れ直進します。川に沿って細い道が分岐しているのでそちらに歩を進めると、路傍の大きな岩の上に石仏が祀られていて、地元住民の信仰の厚さを感じさせてくれます。その先には、平原(へばら)集落が現れます。川沿いの斜面に石垣を築くことで平地を確保し、木造の農家建築と土蔵が建ち、軒先には柿や大根が吊るされて、農村の秋を感じさせます。境沢川が神流川に合流する辺りには、赤い欄干の橋が架かり、その手前には小さな社と火の見櫓が並んで佇んでいて、道の向かいには木造の平原公民館が建っています。懐かしい農村集落の風景が、今もそのままに残されていることに深い感動を覚えます。境沢川を渡った先も道沿いに集落が続くのですが、特筆すべきは土蔵の多さで、つい足を止めてしげしげと眺めてしまい、散策は遅々として進みません。赤く塗られた随分古そうな火の見櫓の隣に、思いがけずお店を発見しました。「重子の台所」というそのお店は、自宅を改装し女性が一人で切り盛りしていて、ごまかりんとうやクッキーなどを製造販売しています。観光客などまったく通らない場所なのですが、道の駅や恐竜センターでも販売していて、自分ひとりでやるにはちょうどいい忙しさだと言っていました。定年を迎え日曜大工に精を出す旦那様ともいろいろ話をし、ふたりの暮らしぶりを知ると、田舎暮らしもいいものだなあ、と思えてきます。

国道299号平原橋近辺から平原集落を望む

 平原集落が途切れ、しばらく川沿いの静かな道を進みます。色づいた樹々の葉を愛でながら歩いていくと、右に逸れる道があるので曲がり、しばらく行くと尾附(おづく)集落が現れます。山の緩斜面に、農地とともに点々と古い農家建築が建っています。農山村はどこも過疎化に悩まされていますが、この集落も過疎化が進み、空き家が増えてきているそうです。集落の裏手の高台には、中世に尾附城があったそうですが、現在遺構はほとんど残っていません。集落が終わるとしばらく自然の中の道が続き、国道299号にいったん出ますが、すぐに細い道が分岐するのでそちらに進みます。川沿いの寂しい道をしばらく歩き、小さな集落を通り抜けると国道299号にぶつかります。神流川に架かる平原橋からは、対岸に平原集落を望むことができます。国道299号を東へ進み、中里合同庁舎まで戻りました。

文/企画課 新井基之

●今回ご紹介したコース