群馬県信用保証協会

羽沢・勧能地区の道

折々の散歩道

郷愁いざなう古き良き農山村風景

南牧村

 少子高齢化と人口減少は、日本だけでなく多くの先進国に共通する大きな課題です。労働力の減少、ひいては経済力や国力の衰退にもつながる事象ですので、我が国でもさまざまな対策が講じられていますが、社会構造や人々の意識の変化もあり、なかなか思うような結果が現れていないのが実情です。ところで、群馬県にある南牧村は、日本で最も高齢化率の高い村として知られています。65歳以上の高齢者の割合が58.5%(平成25年10月1日時点)、また、14歳以下の子供の割合は3.9%で、こちらも日本一低い数値となっています。これに伴い過疎化も進展しており、昭和30年10月の国勢調査の際の人口が10,573人だったのに対し、現在は2,303人(平成25年12月末時点)と大幅に減少しています。古くから砥石生産、林業、養蚕やこんにゃくなどの農業で成り立っていた村だったのですが、時代の流れとともにそれらの産業が衰退する一方、交通の便が悪い山村という立地が新たな産業の進展を阻み、その結果、住民たちは仕事を求めて他の地域へと移住せざるをえなかったのが、現在の過疎化、高齢化の原因となっています。このような苦境をどのように脱するかということは、余りに難しい課題なので手に負えるものではないのですが、確実に言えることは、今もそのまま残っている、まるで江戸時代や明治時代にタイムスリップしたかのような鄙びた農山村の風景は、人々の心を引きつけますし、そのような風景を求めている人は案外多い気がします。日本の原風景として将来に亘って残していく価値もありますので、滞在型観光施設やテレビや映画等のロケ地として活用していければ、維持、保存することができ、人の流れも生まれるのではないでしょうか。

 さて、今回は、南牧村の羽沢・勧能地区を訪れ、静かな農山村を散策しましょう。南牧村民俗資料館に車を停め、最初に資料館を鑑賞します。南牧川と星尾川の合流地点の高台にあり、かつて尾沢小学校だったところで、更に遡ると、戦国時代には羽沢城、江戸時代には武家屋敷があったのですが、現在遺構はほとんど残っていません。平成6年3月の廃校後は、資料館として活用されており、昭和56年築の鉄筋コンクリート造り3階建ての立派な建物の中には、村内から集められた生活用具、農耕道具、各種産業道具等が所狭しと並べられています。その数量には圧倒されるほどで、かつての農村の豊かな暮らしぶりが彷彿とされます。展示品のうち1,031点が国登録有形民俗文化財に、329点がぐんま絹遺産となっています。近くには炭入りピザを提供するビアカフェBBという店があるのですが、車で立ち寄った道の駅「オアシスなんもく」で買った弁当を、かつての校庭の片隅に座り食べました。

 資料館を後にして、最初は星尾川に沿って走る県道201号(星尾羽沢線)を北に向かって歩きます。資料館の北には羽沢城主市川氏の墓があり、更に北に向かうと、空き地に鳥獣供養塔が立っています。自然と共存する素朴な信仰の心を見た思いがします。県道201号を引き返し、資料館まで戻り、今度は、南牧川に沿うように東西に走る県道93号(下仁田臼田線)を歩きます。東に向かい星尾川を渡ったところには、廃校となった尾沢中学校があり、その先には道沿いに小さな集落があります。石造りの穀物倉庫がひときわ目を引き、往時の農業の隆盛を偲ばせます。集落が途切れたら、来た道を引き返し、今度は西へと進んでいきます。資料館の南側には、尾沢学校集会室と書かれた昭和レトロのコンクリート造りの大きな建物がありますが、現在は使用されていません。

 しばらく人家が途切れ、山襞が左右に迫る、南牧川の河岸につけられた静かな道が続きます。1月下旬に訪れたのですが、道には雪はないものの、山の日陰には残雪があり、川の水はところどころ凍っています。南側を流れていた南牧川が合芳橋で北側に移り、川に沿って少し進んだところで前方に大きな集落が見えてきます。ここは勧能集落で、県道93号の両側と、南牧川の北側の少ない平地と緩斜面に、建物が並んでいます。集落に入ってすぐ、県道93号の南側の斜面の高台になったところに、火の見櫓を見つけました。階段がつけられているので登ってみると、火の見櫓の裏手には墓地があり、小さくて古い木造のお堂があります。このお堂、特に名前は刻まれていませんが、とても味わい深い佇まいをしています。高台からは、南牧川の対岸のまち並みが一望できます。県道93号沿いにある建物は商家が多いのですが、現在はほとんど営業していません。やがて道はY字路になり、右は馬坂川に沿うように県道93号が、左は南牧川が熊倉川に名を変えてそれに沿うように県道108号(下仁田佐久線)が続きますが、右の県道93号を進みます。

山懐に抱かれた勧能集落

 道が分岐するところには大きな農家があるのですが、石を積んで土砂が流れ出るのを防いだ高台の上に建っていて、見上げるほど高い石垣の丁寧な仕事ぶりには感心させられます。人家はすぐに途絶えるので、県道93号から逸れ、馬坂川を渡り、南牧川の北に広がる勧能集落の中の細い道を歩きます。この集落の建物は、川沿いの斜面にあるので、土止めの石垣が多く目につきます。南牧川に面しているところは商家建築が多く並び、その裏側には古い2階建ての養蚕農家が建っています。途中、2人の住民の方とすれ違いましたが、集落は静まりかえり、石垣に守られた養蚕農家の間の狭い道を歩いていると、深い郷愁が胸を満たしてきます。南牧川には幾つか橋が架けられ、対岸を走る県道93号と行き来でき、橋の上から見た集落風景も味わい深いものがあります。大きな岩の上に、双体道祖神が川のほうを向いて載せられているのを見つけ、まるで見送られるように勧能集落を後にしました。県道93号を東に進み、南牧村民俗資料館まで戻り、スタッフの方の丁寧な説明を聞きながら、再び展示品を鑑賞しました。集落を散策した後に、展示されている民具が使われていた様子を想像すると、一層親しみが湧きました。

勧能の街なみ

文/企画課 新井基之

●今回ご紹介したコース