群馬県信用保証協会

花咲地区の道

折々の散歩道

花咲く春の農村をゆるりと歩く

片品村

 近年、ゲームアプリ『ぐんまのやぼう』をはじめ、群馬県制作による俳優藤岡弘さんを起用したウェブコミック『群馬探検隊』、群馬県も協力した公式ライトノベル『“世界最後の魔境"群馬県から来た少女』(日下一郎著、PHP研究所発行)、ウェブコミック誌「くらげバンチ」に連載中で単行本第1巻も発売された『お前はまだグンマを知らない』(井田ヒロト著、新潮社)など、「秘境グンマー」とネット上で揶揄されたり、地域ブランド力や知名度が全国で下位を低迷する群馬県の現状を、自虐ネタを活用したアプローチで打開しようという動きが出てきています。これは群馬県民としても非常にうれしいことで、これらのコンテンツを「あるある」「そうそう」「いえてる」と共感しつつ楽しみながら、これで地域ブランド力や知名度が上がればいいな、と期待しています。また、これらとはちょっと異質なのですが、もうひとつ、群馬に関連の深い漫画が現れています。「月刊アフタヌーン」2013年11月号から連載を開始し、今年4月に単行本第1巻が発売された『月に吠えらんねえ』(清家雪子著、講談社)です。萩原朔太郎の処女詩集『月に吠える』をもじったタイトルからも分かるとおり、「水と緑と詩のまち」をキャッチフレーズに掲げる前橋市の、「詩」を代表する近代詩人・萩原朔太郎を主人公(正しくは、作品から受けた印象から作者像をイメージした「朔太郎」を主人公)にしており、北原白秋や室生犀星、三好達治など、同時代を生きた近代文学者(の作品から受けた印象から作者像をイメージしたキャラクター)も多数登場します。「近代□(詩歌句)街」という架空の土地を舞台に繰り広げられる物語は、内容的にはなかなか過激でサブカル色がとても強いのですが、作者の清家雪子さんが近代文学者の作品や関連書籍を充分に読み込み咀嚼した上で創作しているので、妙なリアリティと説得力があります。主要な登場人物の一人である室生犀星の故郷にある石川近代文学館では、単行本の発売に合わせて5月1日から9月30日まで常設展内特別展示「『月に吠えらんねえ』刊行記念 室生犀星と□(詩歌句)街の仲間たち」が開催されています。主人公萩原朔太郎の故郷である前橋市でも、前橋文学館等で『月に吠えらんねえ』とのコラボ企画展が実現することを期待します。

 さて、今回は、片品村の花咲地区を訪れ、その名のとおり花々の咲きほこる山里を散策することにしましょう。沼田市方面から車で国道120号(日本ロマンチック街道)を北へと向い、昨年(2013年)11月に開通した椎坂トンネルを抜けてしばらく進み、左折して県道64号(平川横塚線)を西に行くと花咲地区に至ります。花の駅・片品花咲の湯に駐車をして、まずはここのレストランで腹ごしらえをすることにします。花咲の湯は日帰り温泉施設ですが、レストランや売店には無料で入ることができ、地元の地粉そばを食べてから、県道64号を西に向かって散策を開始しました。5月の下旬に訪れたのですが、周囲の山々の少し色が濃くなり始めた新緑が鮮やかで瑞々しく、かじか蛙や鳥たちがその鳴き声で自然の豊かさを謳歌していることを知らせてくれます。道沿いの民家には木造の農家建築や白壁の土蔵が点在しています。やがて右側に善福寺が現れます。善福寺は元暦元年(1184)に開山され、寛政10年(1798)に現在地に移転、明治6年(1873)から明治29年(1896)にかけて本堂が小学校を兼ね、住職は教員も兼務していました。境内には「片品南小学校発祥の地」と刻まれた大きな碑が立っているほか、古雅で愛嬌のある石仏がたくさん佇んでいます。再び県道64号を西に向かうと、「二本松の由来」と刻まれた碑が現れます。かつてここには樹齢300年を超える二本の老松がありましたが、昭和34年の伊勢湾台風により倒伏したそうで、地元の方の巨樹信仰を感じさせる碑です。

農村風景

 片品南小学校の手前を右に折れると、小学校の北側に武尊神社が現れます。建立の時期は明確ではないようですが、武尊山の山岳信仰から誕生し、利根郡周辺にある武尊神社の総鎮守で、明治41年の神社統合では村内28社が合祀されました。普段は杉林に覆われた森閑とした神社ですが、旧暦9月の中の申の日に行われる猿追い祭りは、猿による農作物への被害を防ぐことを目的として始まった、300年近く続く奇祭で、国登録無形文化財となっています。武尊神社から県道64号へ引き返し、登戸方面へ行く道を進みます。火の見櫓を見つけたのですが、道の反対側には熊除けの鈴(というより鐘)がぶら下がっています。ここからしばらくは人家の途絶えた車道が続くのですが、ところどころに「熊出没注意」のステッカーや鐘があり、思わず早足になります。登戸地区は田んぼと畑が広がり、水が張られた水田は山の緑と空の青を映し込み、典型的な農山村の美しい風景が見られます。集落の中に進むと、この地の由来となった花咲石が祀られています。日本武尊命がこの地の賊悪勢(おぜ)を討伐した際、火に包まれた悪勢の長の妻がこの石に姿を変え、以来村に疫病が流行するようになったのでこの石を祀ったところ平和が訪れた、という伝説が残ります。道の向かいの登戸集落センターには、大宝元年(701)行基がこの地に安置したと伝わる十一面観音が保存されています。

武尊神社

 しばらく集落の中の静かな道を進みます。木造の農家建築が多く残り、一部は民宿を営んでいます。土蔵もたくさん残っていますが、県道64号沿いで見かけたような白壁ではなく、土がむき出しになったものが多く、素朴な風情があります。庭には春の花々が咲き、まことにのどかです。集落の中に再び火の見櫓を見つけ、更に進むと、「おでいし様と石仏群」と書かれた案内板が立っています。木立の中に木造の祠があり、中に何か祀られています。その手前には、石仏や石造物が並んでいます。古くからの信仰が今も村人に伝わっていることに、文化の厚みを感じます。県道64号に出て、西へと進み、花の駅・片品花咲の湯へと戻りました。

文/企画課 新井基之

●今回ご紹介したコース