群馬県信用保証協会

前口地区の道

折々の散歩道

高原の空気と農村の歴史

草津町

 今年の夏休みの家族旅行は、8月上旬に2泊3日の日程で安曇野・松本周辺を自動車で周遊してきました。松本では、蔵のまち並みで知られる中町通り近くのホテルに宿泊したのですが、ちょうど夏まつりの日に重なり、思いがけず楽しい体験をすることができました。松本市の夏まつりは毎年第一土曜日に開催される「松本ぼんぼん」。オリジナルの歌と振り付けによる踊りで、昭和50年に誕生し、今年で40回目を迎えました。夕方から夜にかけて、広範囲にわたり通行止めになった中心市街地を、315連、約26,300人が踊りながら回り、それを見るために訪れる観客は20万人以上。たくさんの屋台も出て、まちは笑顔溢れる健康的な熱狂に覆われます。ほんの数時間の体験だったのですが、松本ぼんぼんの、軽快なサンバ調のリズムと親しみやすいメロディー、歯切れよく分かりやすい振り付けは、すっかり脳裏に焼きつきました。夏の夜、旅先で、人混みを掻き分けて、踊りを見たり、まち並みを見たり、楽しいひと時を過ごしながら、改めて感じたのは、祭りはその土地を代表する文化である、ということです。もちろん群馬県にも、特色のある祭りと踊りがたくさんあります。前橋まつりのだんべえ踊り(10月)、桐生八木節まつり(8月)、渋川へそ祭りのへそ踊り(7月)、沼田まつりの天狗みこし(8月)、太田市の尾島ねぷたまつり(8月)、沼田市の老神温泉大蛇まつりの大蛇みこし(5月)など。いずれも、地域の文化的特色を生かした独自性があることから、住民に愛され、地域に根づいているのでしょう。

 さて、今回は、草津町の前口地区を訪れ、よく知られる温泉街とは別の、もうひとつの草津町の顔を見て歩くことにしましょう。中之条方面から国道145号(長野街道)を車で西に向かい、長野原町の大津交差点から国道292号(草津道路)を北上すると、間もなく草津町に入ります。国道292号沿いにあるろくもんせんという蕎麦屋で早めのお昼を食べてから、再び車を北へ走らせ、県道59号(草津嬬恋線)を左折します。駐車に適した場所を探しながら南西に進むと、やがて草津町消防団第六分団の隣に広場があるのを見つけたので、車を停め、歩き始めます。散策に訪れたのは8月下旬で、本来ならば、夏空のもとで高原の清涼な空気を吸いながら歩けるはずなのですが、今年は天候不順が長く続き、この日も時おり小雨の降るあいにくの天気でした。山林の中に農地と人家が点在する静かな県道59号を進み、巌洞沢川を渡ると、草軽交通バスの草津前口停留所が現れます。ここにはかつて、草軽電気鉄道の草津前口駅がありました。草軽電気鉄道は、その名のとおり、草津温泉と軽井沢を結ぶ鉄道で、大正2年に新軽井沢で着工し、大正15年に全線開通しました。観光客を運ぶ高原列車として親しまれ、昭和26年に公開された日本初のカラー映画「カルメン故郷に帰る」にも登場しました。また、草津周辺の鉱山から産出される硫黄鉱石や、広大な農地で作られた農産物の輸送にも利用されていました。しかしながら、国鉄長野原線(現JR吾妻線)の開通やバス輸送の発達等により、次第に利用客が減少し、昭和37年に全線廃止に至りました。草津前口駅には、かつて操業していた白根硫黄鉱山から索道が仮設され、鉱石や製品が運び込まれていましたが、駅の跡地には、現在、往時を偲ばせる遺構は残っておらず、空き地が広がっているばかりです。かつての路線跡に思いを馳せながら、静かな高原の道を南西に進むと、苗園前停留所の先で、ザゼン草公園の案内板が現れるので、左折して、公園を目指します。ザゼン草は、サトイモ科の多年草で、形は水芭蕉に似ていますが、赤紫色をしており、僧侶が座禅をする姿を髣髴とさせることから、この名がつきました。開花期は4月から5月にかけてなので、花を見ることはできませんでしたが、林に広がる湿地帯に木道が設えられ、快適な散策コースが作られています。

 来た道を県道59号まで戻り、北東方面に少し向かうと、苗園前停留所の辺りでY字路が現れるので、県道59号から逸れて右へ進みます。農地の中に家屋が点在する道が続き、永年風雪に耐えた土壁の蔵を幾つか見ることができます。隣の嬬恋村で有名なキャベツ畑も目につきます。やがて左側に前口観音堂が現れます。現在の観音堂はさほど古いものでなく簡素な作りなのですが、説明板によると、18世紀中頃以前に創建されたようです。目を見張るのは境内に立ち並ぶ石造物の数々。立体的に飛び出した馬に乗る観音像、鏡餅のように丸い石が五つ重なったもの、仲睦まじい双体道祖神など、味わい深いたくさんの石造物を眺めながら、古の人々の信仰の力に思いを馳せます。道の反対側には小さなガソリンスタンドが今も経営を続けています。キャベツ畑などを眺めながら歩を進め、Y字路を右折して道なりに行き、巌洞沢川に架かる諏訪橋を渡ると、左側に前口諏訪神社が現れます。広い境内には大きな杉の木が生い茂り、小雨降る中に佇む社殿は、粛然としてえもいわれぬ風情があります。神社には明治初年から獅子舞が伝わっていましたが、一時中断した後、昭和55年に復活しています。ザスパクサツ群馬のマスコットキャラクター湯友(ゆうと)くんは、獅子の姿を模しているのですが、ここ前口諏訪神社の獅子舞が由来となっています。

前口諏訪神社

キャベツ畑

 しばらく住宅街が続きますが、改修した土蔵を多く目にすることができます。中沢家発祥之地と刻まれた石碑を見つけました。「朝夕に浅間山見てここに立つ」という俳句も刻まれています。広大な一般廃棄物の最終処分場の反対側の土手には、天明3年の双体道祖神が佇んでいました。国道292号にぶつかるので左折して、北に向かってしばらく進むと、左側に細い道があるので曲がります。別荘風の建物も点在する住宅街を抜けると、車を停めた草津町消防団第六分団隣の広場に到着しました。

 

文/企画課 新井基之

●今回ご紹介したコース