事業再生支援の取組事例

事例1【求償権消滅保証】

企業の業種:管工事業
年商:約2億2千万円
従業員:11名

1.事業再生支援以前の企業の状況

 支援企業は、給排水設備、水道衛生設備などを行う管工事業者です。ピーク時の売上は約3億5千万円ありましたが、不況の影響などにより、売上は減退し、資金不足から代位弁済となりました。代位弁済後は、厳しい業況にもかかわらず、事業を継続しながら当協会の求償権への返済を誠実に履行していただいていました。
 そのようななか、社員の削減、取引先との支払条件の変更、公共工事の受注獲得推進、住宅メーカーの指定業者の獲得推進など、懸命な経営改善を推し進め、徐々に業績は回復してきました。しかし、求償権があるため通常の金融取引が行えず、設備更新や運転資金にかかる新たな借入ができない状況でした。また、後継者である社長の息子(専務)も入社し、事業承継を行うにあたり、金融取引の正常化は早急に実施しなければならない課題でした。

2.事業再生支援の内容と結果

 当協会は、支援企業から相談を受け、事業再生支援の検討を行いました。その結果、収益性や安全性に若干の懸念事項があるものの、事業継続性は十分にあると判断し、求償権消滅保証に向けて取り組むため、経営個別支援チームを組成しました。
 まず、当協会より認定支援機関である中小企業診断士を紹介し、国の経営改善計画策定支援事業(405 事業)を活用して、経営改善計画の作成に着手しました。経営改善計画の作成は、当協会と中小企業診断士の協働で行い、社長及び専務と何度もヒアリングを重ねました。
 できあがった経営改善計画の骨子は、以下の4本柱です。
 ❶売上の維持・拡大:既存取引先との深耕と新規取引先開拓。
 ❷原価管理の強化:部門別の売上、工事件名別の完成工事高、原価の管理。
 ❸経営管理体制の構築:経営目標の設定と社員との共有。
 ❹資金繰りの改善:求償権消滅保証の実施と計画的な返済の実行。

 当協会は、作成された経営改善計画書の妥当性を検討した結果、充分に実現可能であると判断し、支援企業が取引を希望する金融機関に同行して、求償権消滅保証の取り扱いについて説明を行いました。その後、経営サポート会議を開催し、金融機関も支援企業の現況や経営改善計画書の妥当性を評価したことから、中小企業診断士、税理士及び学識経験者からなる外部専門家で構成される再生審査会を開催し、求償権消滅保証の実行に係る承認を得たことで、求償権消滅保証を実行し、金融の正常化を図ることができました。

事例2【協会主導による事業再生支援】

企業の業種:各種商品卸売業
年商:約2億8千万円
従業員:7名

1.事業再生支援以前の企業の状況

 支援企業は、業歴の長い葬儀返礼品、粗品、贈答品等の卸売業です。世界同時不況(リーマン・ショック)による消費低迷の影響を受け、ここ数期売上の減少が続いていました。また、不良資産(貸付金等)が多額にあり、借入金も過大の状況でしたので、実質財務は大幅な債務超過の状況でした。
 そのため、恒常的な資金不足により、月々の返済に延滞が生じ、金融機関から当協会に事故報告書が提出されました。

2.事業再生支援の内容と結果

 支援企業の取扱商品は、多種多様である反面、利益率が低いことが特徴で、まさに典型的な薄利多売の状況でした。そのため、当協会は、利益率を向上させるための経営改善措置として、取扱商品の見直し、人員整理、諸経費削減等のアドバイスを行い、企業もそれを実施しました。その結果、利益率は改善されましたが、依然として過大借入金の返済が重く、資金繰りは厳しい状況が続いていました。

 当協会の担当者が、事故報告書を提出した金融機関をはじめ、各取引金融機関と協議を行い、事業再生計画の作成を支援しました。支援企業は、営業ベースでは黒字を計上し、相応のキャッシュフローを確保していましたが、借入金の返済が大きいために、資金繰りが安定しないことが一番の課題でした。よって、借入金返済をキャッシュフロー内に抑えることを念頭に、各取引金融機関に返済緩和支援を得られるよう、事業再生計画を作成しました。
 作成にあたっては、何度も企業訪問を行い、社長から決算書上の不明点や、改善事項の確認等を行い、今後3年間の改善計画を立てました。計画作成時には、中小企業経営診断システムによる経営診断報告書を利用し、計画数値の妥当性も検討しました。
 計画作成後は、借入金返済予定表に基づき、各取引金融機関の支援のもと、条件変更を実施し、正常化を図ることができました。

 その後は、事故解消となり、順調に返済を履行していただく姿を見て、大規模な世界恐慌の影響など、苦境に立った中小企業への支援の重要性を再認識しました。

事例3【長期のリスケジュール、経営改善サポート保証】

企業の業種:旅館業
年商:約17億5千万円
従業員:129名

1.事業再生支援以前の企業の状況

 支援企業は、県内有数の温泉地で60 年以上営業する老舗の温泉旅館です。過去に大幅な設備投資(新たな旅館の建設、既存建物の改修)を全額金融機関からの借入で調達しましたが、その後の集客が予想を下回ってしまったことから、返済の負担が大きく、厳しい経営状況が続いていました。
 そのようななか、支援企業は自社で経営努力を行い、伝統的な旅館であるという強みを活かした営業と経費の削減により、収益力は改善傾向にありました。しかし、現状の借入金返済や利息支払を賄えるほどのキャッシュフローを確保することは困難な状態であったうえ、旅館業という業種柄、今後も定期的に実施しなければならない設備投資(建物・機械装置の改修費用等)を考慮すると、更に踏み込んだ抜本的な対策が必要不可欠でした。
 そこで支援企業は、群馬県中小企業再生支援協議会(以下「支援協」という。)に相談しました。支援協は、収益力の改善、資金繰りの緩和、財務体質の強化により、「支援企業は事業再生できる」と判断し、支援することとしました。

2.事業再生支援の内容と結果

 支援協は、外部専門家による事業面・財務面の調査により、支援企業の現況把握や、課題の抽出を行いました。調査結果を踏まえて支援協は、返済負担を軽減するべく取引金融機関に対しDDS(債務の資本的劣後化)を求める再生計画の提示を行いました。また、この他に大口債権者である一部の金融機関からは、今後のモニタリングを株主として行うべくDES(債務の株式化)の依頼がありました。

 当協会は「通常よりも長期間のリスケジュール(条件変更)」を実施し、返済額軽減の支援をいたしました。
 また、再生計画上で今後必要となる設備の改修資金については、当協会の保証制度である経営改善サポート保証による支援を決定し、再生計画が成立しました。

 その後、当協会の経営改善サポート保証による融資が実行され、設備の改修が行われたことで、支援企業は事業再生に向け懸命に取り組み始めました。

事例4【保証付債権DDSによる事業再生】

企業の業種:木材加工品の製造販売業
年商:約9億円
従業員数:60名

1.事業再生支援以前の企業の状況

 支援企業は県内で50 年以上続く木材加工品の製造業者です。主にキッチン・システム収納家具や住宅用内装パネルを製造しています。
 リーマンショック以降、不動産市場低迷の影響を受け、賃貸マンション向け製品の売上が大幅に減少しました。その後も収益は改善せず、連続して営業赤字を計上していました。
 その後、新規取引先の開拓や固定費の削減により、収益は回復の兆しが見えはじめていましたが、多額の有利子負債とそれによる多大な利息の支払により、財務内容の改善は思うように進みませんでした。
 このため、支援企業は、金融コストの負担軽減について金融機関へ協力を得るために、支援協に相談し、事業再生支援を受けることとなりました。

2.事業再生支援の内容と結果

 協議会は、外部専門家による事業面・財務面の調査を経て、支援企業の再生計画を作成しました。再生計画の骨子は、金利負担の削減であるため、協議会は、DDS(債務の資本的劣後化)を再生手法として選択しました。
 従来は、保証付債権をDDS する場合、一旦代位弁済を行った上でDDS 契約を結ぶことが必要でした。しかし、代位弁済をしてしまうと当協会が求償権を取得するため、その後の金融機関からの借入調達について支障をきたす可能性があります。そこで、当協会は、平成26年から取り扱いが可能となった「保証付債権DDS」を提案しました。これは、代位弁済をせずにDDS 契約を結ぶことを認めた、新たな再生手法です。
 DDSの契約では、原則0.4% 程度の金利を設定するため、支援企業の金利負担は減少することになります。更に、金融機関においては、DDSを行った借入は、金融査定上の自己資本とみなすことができるため、実質債務超過額の解消や、有利子キャッシュ・フロー倍率の基準を満たすことができます。支援企業は、DDSの実施により金利負担が軽くなり、順調に収益を上げるに至りました。
 支援企業は、再生計画の進捗報告会を毎月開催するようになりました。中小企業は地域経済の発展と雇用の安定に欠かせない役割を担います。そして、中小企業の事業再生の場面では、金融機関をはじめとしたステークホルダーの協力が欠かせません。中小企業と金融機関が相互に理解し合い、協力して地域経済に貢献していくことが重要であると、間近で感じることができる事業再生支援でした。

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